彼女は、山姥切国広を選んだ。
ゆっくりと手を伸ばし、その刀に触れた瞬間──
パァァァ……ッ!
鋭い光が刀身から放たれ、部屋全体が一瞬、白く染まる。
「ちょ、ちょっと待って!!」
驚いた彼女は、慌てて刀から手を離した。
──まさか、何か顕現されようとしてる!?
男はきょとんとした表情を浮かべたあと、ふっと笑った。
「審神者とは、物の心を励起する者……眠っている想いを目覚めさせ、自ら戦う力を与える存在。君がそれに触れたことで、刀剣男士が──」
「あの……私……これを機に、人間をやめたいのでクマになってもいいですか?」
「……え?」
男の笑顔が一瞬で固まる。
まさかの発言に、部屋の空気が止まった。
「いや、その、なんというか……」
もはや自分でも何を言っているのか分からないが、彼女の決意は固かった。
審神者になるということは、新たな人生の始まり。
どうせ始めるなら── 「人間ではなく、クマとして生きていきたい!」
そんな謎の決意のもと、彼女は顕現を後日に延期することを宣言した。
***
後日。
指定された場所に、再び現れた彼女。
……ただし、普通の姿ではなく、「クママスク」と「クマボデー」を装備して。
「さあ、はじめようか!!」
堂々と宣言し、今度こそ山姥切国広を顕現させる。
光が溢れ、やがて一人の青年の姿が現れた。
「俺は、山姥切国広。足利城主、長尾顕長の依頼で打たれ──」
そう名乗りを上げた彼の目の前には、明らかに異様な姿をした審神者。
「………………」
彼の言葉が、ぴたりと止まる。
いや、そりゃそうだ。
──目の前にいるのは、人間の審神者ではなく……
──どこからどう見ても、クマの着ぐるみを装備した謎の存在。
明らかに戸惑いの表情を浮かべる山姥切国広。
彼の視線が、クママスクの目の部分に釘付けになる。
「……あんた、何者なんだ?」
新たな審神者と、新たな刀剣男士。
異様な出会いを果たし、彼女の物語が今、始まる──!