数日後。
またしても、庭に何かが落ちていた。
今度は——。
巨大ちょうちょ。
「……」
大倶利伽羅は言葉を失った。
ここまで来ると、もう驚くことすらできない。
サメの次がいもむしなら、当然ちょうちょになる流れなのは明白だった。
だが、本当にやるとは思わなかった。
目の前には、明らかに布製のちょうちょ型スーツを着たナマズオマスクの審神者——ギョリイが、ぴくりとも動かずに横たわっている。
しかも、背中には巨大なカラフルな布の羽がついていた。
大倶利伽羅は、今度こそ完全に無視することを決意する。
足早に通り過ぎようとした、その瞬間。
「……飛べないぺ……」
ギョリイのか細い声が響いた。
(……いや、知らん)
大倶利伽羅は無視する。
しかし、次の言葉で足が止まった。
「いもむしは、頑張ったのに……」
「……」
「こんなに……立派なちょうちょになったのに……」
「……」
「飛べないぺ……」
「……」
(なんだ、この罪悪感は)
これまで何度も馴れ合ってしまったせいか、
もはや「完全に無視する」という選択肢が精神的に難しくなっていた。
大倶利伽羅は天を仰ぐ。
くそ……またか……
結局、いつものようにため息をつきながら近づく。
「……何がしたいんだ」
「ちょうちょは……空を舞うものぺ……」
「そうか」
「だから、飛びたいぺ……」
「無理だ」
「飛びたいぺ!!」
「いや、無理だ」
「ちょうちょは飛ぶものぺ!!」
「現実を見ろ」
「そんなこと言うやつがいるから……!」
「ちょうちょは飛べなくなるぺ……!!」
ギョリイがじたばたと暴れだした。
しかし、ちょうちょスーツの羽が大きすぎるせいで、うまく動けていない。
(何をやっているんだ、こいつは……)
その姿があまりにも間抜けで、思わず大倶利伽羅は顔を覆った。
(もういい……付き合ってやるしかないか)
観念した彼は、ギョリイの背中の「羽」をぐっと掴んだ。
「……っ!!?」
ギョリイの動きが止まる。
大倶利伽羅は言った。
「飛びたいんだろ」
「……っ、飛びたいぺ!!」
「なら、少しだけ飛ばせてやる」
「……まさか!!?」
ギョリイが目を輝かせた瞬間——。
ヒョイッ。
大倶利伽羅は、軽々とギョリイを抱え上げた。
「ひょえぇぇぇぇぇ!?!?」
突然の持ち上げに、ギョリイがナマズオマスクの中でパニックを起こす。
「ほら、飛んでるぞ」
「ちょっ、まっ、大倶利伽羅、それは違うぺ!!」
「お前が飛びたいって言ったんだろ」
「それはっ……!! 自分の力で飛びたかったぺ……!!」
「じゃあ、降ろすか?」
「それはそれで怖いぺ!!!」
大倶利伽羅は仕方なく、ギョリイをその場でぐるりと回してから、そっと地面に降ろした。
「ほら、飛んだぞ」
「ぺぇぇぇ……」
「満足したか」
「……ぺ……」
ギョリイは、ちょっと嬉しそうだった。
こうして、大倶利伽羅はまたも馴れ合ってしまったのである。