数日前——。
サメ型寝袋事件 に巻き込まれた大倶利伽羅は、以来、庭を歩く際に気をつけるようになった。
何が落ちているかわからない。
というより、ギョリイが何になっているか、わからない。
だが、その警戒心も虚しく——今日もまた、庭の隅に奇妙な物体が転がっていた。
今度は、巨大いもむし だった。
「……」
しばらく無言でそれを見つめる。
全長約1メートル強、ふかふかした緑色のフォルム。
明らかに布製のいもむし型寝袋である。
(またか……)
大倶利伽羅は深いため息をついた。
これ以上ないほどに、呆れたため息 だった。
「……今度はいもむしか」
嘆くように呟く。
「うねうね……」
いもむしが、ほんのわずかに動いた。
「いもむしは……疲れたぺ……」
やはり、ギョリイだった。
「……何をしている」
「いもむしごっこぺ……」
「何のために」
「いもむしの気持ちを知るためぺ……」
大倶利伽羅は目を閉じ、「関わらないのが一番だ」と判断した。
サメ型寝袋事件で学んだのだ。
相手にするから長引くのだ。
よし、今度こそ無視する。
そう決め、大倶利伽羅は静かに歩き出す。
——が。
ガシッ。
「またか……」
彼の脚を、いもむしの小さな手が掴んでいた。
いや、これは「いもむしの足」ということなのだろうか……?
「無視するなぺ」
「……お前、何がしたいんだ」
「いもむしはね……お友達がほしいぺ……」
「俺はならない」
「いもむしは傷ついたぺ……」
「好きにしろ」
「……」
沈黙。
だが、突然、いもむしがゴロゴロと転がり始めた。
「いもむしは絶望したぺええええええ!!」
転がりながら、本丸の庭を大移動していく。
いもむしの動きは予測不能だった。
(……これは放っておくと危ないな)
大倶利伽羅はまたもや関わらざるを得なくなった。
「……おい、どこに行くつもりだ」
「いもむしはね……気づいたぺ……!」
「何にだ」
「いもむしは……蝶になるぺ……!!」
「……」
「そして、自由に空を舞うぺ……!!」
「……お前、羽ないだろ」
「心に羽を生やすぺ……!!」
「……」
結局、大倶利伽羅はその日も馴れ合ってしまった。