審神者が分厚い本を抱えて、ずしずしと部屋を歩き回っていた。
「オラは……! かつては召喚士だったんだっぺ!!」
誰に向けたのか分からない宣言をすると、審神者は意気揚々と襖を開け放った。
庭では、山姥切国広、山姥切長義、へし切長谷部、加州清光、大和守安定、不動行光、鶴丸国永、そして雲次がそれぞれの時間を過ごしていた。が、突如として現れた審神者に全員の視線が集中する。
「……また妙なことを思いついたのか?」
山姥切国広が警戒心たっぷりに尋ねると、審神者は嬉々として分厚い本を高々と掲げた。
「見ろっぺ!! これがオラがエオルゼアで使っていた魔導書だっぺ!!」
「……ただの分厚い本じゃないか?」
山姥切長義が冷静に言い放つ。
「違うっぺ! これはオラの召喚士時代の相棒なんだっぺ!!」
「相棒……?」
「そうだっぺ! これを使って、バハムートを召喚したり、フェニックスを呼び出したり……! へへ、オラ、強かったんだっぺ!!」
胸を張る審神者だったが、当然ながらこの世界では魔導書はただの本である。
召喚獣も、魔法も、エオルゼアでの栄光も、この薩摩の本丸では何の役にも立たない。
「……ふぅん? じゃあ、見せてもらおうか?」
鶴丸国永が面白そうに口元を緩めた。
「そいつで何ができるんだ?」
「ふふっ、いい質問だっぺ! では、お見せしよう……!っぺな」
審神者は本を開き、厳かに詠唱を始めた。
「――闇を照らす炎の覇王よ、その力を借りるっぺ!! デミ・バハムート召喚!!」
――……シーン。
どこからも、何も出てこない。
何かの気配すら、微塵も感じられない。
「……?」
審神者は首をかしげる。
「おっかしいっぺな……。もう一回やるっぺ!」
もう一度、大きく息を吸って――。
「――不死鳥の炎よ、戦場に舞い降りよ!! デミ・フェニックス召喚!!」
――……やはり、何も起きなかった。
「……」
「……」
静寂が訪れる。
刀剣男士たちは誰も何も言わなかったが、沈黙がじわじわと審神者を追い詰める。
ついに、不動行光が堪えきれず、肩を震わせながら吹き出した。
「は、ははははっ! だめじゃねぇか、主! 何にも起きねぇぞ!」
「……ちょっと待ってくれっぺ! こういう時は、ガルーダっぺな! ガルーダなら風を起こせるっぺ!」
審神者は焦ってページをめくり、今度はさらに大きな声で叫んだ。
「――嵐を呼ぶ風の女神よ! ガルーダ召喚!!」
パタン、と本が閉じる音だけが響いた。
「……やっぱり、ただの本じゃないか?」
長谷部が静かに言った。
「うぺ……」
「いや、主の気持ちは分かるが……ここはエオルゼアじゃないぞ?」
「オラだってわかってるっぺぇぇぇ!! でもっ! オラは!! 召喚士だったんだっぺぇぇぇ!!!」
ついに審神者が地面に突っ伏してしまう。
「……かわいそうになってきた」
「まぁまぁ、召喚獣は出せないが、本を盾にするとか、本を投げつけるとか、色々活用できるかもしれないぞ?」
鶴丸が笑いながら肩をすくめると、清光が「それ、本の使い方としてどうなの」と呆れた声を上げた。
「結局、ただの分厚い本ってことだな」
「うぺ……」
しょんぼりと肩を落とす審神者を見て、安定が苦笑しながら慰めるように言う。
「まあ、主が召喚士だったってのは分かったよ。けど、ここじゃ役に立たないなら、別の強みを探すのもいいんじゃない?」
その言葉に、審神者はハッとしたように顔を上げた。
「……そ、そうだっぺ! オラにはナマズオ流武術があるっぺ!!」
「え、そっち行くの?」
「というか、そんなのあったのか?」
「そりゃあ、オラはナマズオ族っぺからね!」
審神者は立ち上がると、今度は別の方向へと意気揚々と走り去っていく。
「……何か新しい騒動が起きそうだな」
「だな……」
刀剣男士たちは、呆れながらもどこか楽しそうに審神者の後ろ姿を見送った。
――こうして、「召喚士」としての活躍は夢と消えたが、審神者の暴走はまだまだ続くのだった。