ある日の夜。

本丸の屋敷は静寂に包まれ、夜風がそよそよと吹いていた。そんな中、一人の男が本丸の廊下をそろりそろりと歩いていた。

——その男の名は、へし切長谷部。

彼は、慎重に周囲を確認しながら、ある部屋の前で立ち止まった。障子の向こうからは微かに何かが聞こえる。

「…………ふっふっふっ……オラのターンだっぺな……」

長谷部は眉をひそめた。

(……主の部屋から、不穏な笑い声……?)

様子を探るように、さらに耳を澄ませる。

「……しめしめeyeを発動……これはいただきだっぺ!」

(いただく……!?)

長谷部はピクリと反応した。

まさか賊が潜んでいるのでは!?

冷や汗が滲む。だが、長谷部は一呼吸置くと、意を決した。——主を護るのが、俺の役目!!

「失礼します、主!!!」

バンッ!!!

障子を勢いよく開けた瞬間、そこには——

「うぺっ!?!?」

ナマズオマスクをかぶり、さつまおいもを抱えたギョリイの姿があった。

「…………」

「…………」

沈黙。

ギョリイは、手にしたさつまおいもをもてあそびながら、不思議そうに長谷部を見つめる。

「……長谷部、どうしたっぺ?」

「いや、俺は……」

長谷部は、視線を部屋の中へと移した。部屋の隅には、小さな灯りとナマズオグッズ、さらに床にはいくつものさつまおいもが転がっている。そして、ギョリイの目の前には——

"ナマズオカードゲーム"

(……どういう状況だ!?)

長谷部の頭が追いつかない。

「……何をしていたんですか?」

「見ての通り、ナマズオカードバトルをやってたっぺよ。」

「ひとりで?」

「そうっぺ!」

「…………」

長谷部は、言葉を失った。

「長谷部、驚いたっぺか? オラは、次なるナマズオカード大会に向けて猛特訓中なんだっぺ!」

「ナマズオカード大会……?」

長谷部の脳裏に、知らない単語が飛び交う。

(これは……また主の奇行が始まったのでは……?)

長谷部は不安を覚えたが、ギョリイはキラキラとした目でナマズオカードを掲げた。

「ちなみに今の試合、オラの圧勝だったっぺ!」

「……相手はいなかったのでは?」

「む……確かにそうっぺな。」

ギョリイは腕を組み、悩んだようにナマズオマスクを揺らす。

「ならば……長谷部! オラの相手になるっぺ!」

「……は?」

「ナマズオカードは奥が深いっぺよ……長谷部のお手並みを見せてもらうっぺ!!」

「いや、俺はカードゲームなど——」

「さぁ、デッキを渡すっぺ!」

ギョリイは、なぜかどこからかもう一つのデッキを取り出し、長谷部の前にドンッと置いた。

「勝負だっぺ!!!」

「……ちょっと待て。」

「待てないっぺ!」

ナマズオマスクの目がギラリと光る。

「ここで逃げたら、長谷部は一生『ナマズオ界の敗北者』として語り継がれるっぺよ……?」

「勝手にそんな称号をつけないでください!!」

長谷部の叫びは夜の本丸に響き渡った——。

翌朝。

長谷部は、本丸の庭にある縁側でぼんやりと座っていた。そこにたまたま加州清光と大和守安定が通りかかる。

「……どうしたの?長谷部。」

「…………俺は、負けた。」

「は?」

「ナマズオカードバトルで……主に負けた……」

「……えぇ……」

長谷部の顔には、深い敗北の色が滲んでいた。

「俺は……これからナマズオ界の敗北者として……生きていくのか……」

「長谷部、何があったんだよ……」

遠い目をする長谷部を見ながら、清光と安定は心底呆れたのだった。

——へし切長谷部、ナマズオカード界に散る。