山姥切はギョリイの手を引いて猛ダッシュしていた。
「ちょ、ちょっと!? なんでそんなに急ぐの!? 私、走るの苦手なんだけど!」
「うるさい!! あんたがこのままだと、いろいろまずいことになる!!」
「えっ、私、何かヤバいの!?」
「そうだ!! とにかく長義と長谷部のとこに行く!!」
ギョリイは訳も分からず山姥切に引きずられていくが、その姿を廊下の向こうから大和守安定が見ていた。
「……え?」
ギョリイがナマズオマスクをつけてない。
しかも、服装もラフに崩れ、明らかにいつもの雰囲気と違う。
「ちょっ……えっ、えぇぇぇぇ!??」
安定は、思考が追いつかず硬直した。
しかし、山姥切はそんなことに構っている余裕はない。
「見なかったことにしろ!!」
「はぁ!?」
ドンッ!!
肩をぶつける勢いで安定の横を通り抜け、山姥切は走り去っていった。
「……いやいやいや、何!? 何が起こってるの!?」
安定は呆然と立ち尽くした。
ようやく長義と長谷部のいる部屋にたどり着いた山姥切。
「……あんた、ずいぶん慌ててるな」
「それより、ギョリイが……!!」
長義と長谷部がギョリイを見ると、案の定――
ナマズオマスクをつけていない。
素顔を堂々と晒し、むしろ当たり前のような顔をしている。
「……え?」
長谷部の表情が凍った。
長義も、一瞬目を見開いたが、すぐに状況を察して険しい顔になる。
「なるほどね……。で、何があった?」
「記憶喪失になった!!」
「はぁ!?」
長谷部が思わず立ち上がる。
「それで、何もかも忘れてるみたいなんだが……一番まずいのは、ナマズオマスクのことを完全にどうでもよくなってることだ!!」
「……つまり、素顔を隠すどころかオープンにしていると?」
「そうだ!! このままじゃ、ギョリイの秘密がバレちまう!!」
長谷部と長義が一瞬、目を見合わせる。
「……とりあえず、状況を整理しよう」
長義が冷静に話し始めた。
「① ギョリイは記憶喪失になった。
② その結果、自分がナマズオ族として振る舞っていたことを完全に忘れている。
③ さらに、自分の素顔を隠していたことすら忘れてしまった。
④ つまり、このまま放置すると、他の刀剣男士たちに『ギョリイが人間の女の子だった』とバレる可能性が極めて高い」
「そのとおりだ!! だから、どうにかしないと!!」
「……待てよ?」
長義が腕を組む。
「逆に考えれば、今のギョリイは“素顔を隠す理由”がわからなくなってるんだろう?」
「そうだが?」
「なら、もう一度ナマズオ族になってもらえばいいんじゃない?」
「は?」
「つまり――もう一回、ギョリイをナマズオ族として“洗脳”し直せばいい」
「……そんなことできるのか?」
「やるしかないだろ?」
長谷部が低く呟く。
「それに……安定がすでに気づいている可能性がある。早く手を打たないと、事態はさらに悪化するぞ」
「っ……!!」
安定が見ていた――そうだった。その事実をすっかり忘れていた山姥切の背筋が冷える。
「……わかった。やるぞ」
こうして、ギョリイを再びナマズオ族にするための作戦が始まった――。