次の日。不動は支度を整え、本丸の廊下へと出た。

すると——

「おっ、不動じゃん」

「うおぉっ!?」

目の前にいたのは加州清光。

不動は驚いて思わず変な声を上げてしまった。

「……何そのリアクション。俺、そんな驚かせた?」

「い、いや!! なんでもねぇ!!!」

不動は思わず目をそらし、壁の方を向く。

(ヤバい!! 普通にしろ、普通に!!)

清光はジト目で不動を見つつ、ため息をついた。

「……はは〜ん?」

「な、なんだよ……」

「さては、昨日のこと まだ気にしてんでしょ?」

「っ!!」

不動の肩がピクリと動く。

清光は「やっぱりね」といった顔で、不動の背中をポンと叩いた。

「いいんじゃない? 別に、主が何者だろうとさ」

「……っ!!!」

不動は、思わず清光の顔をまじまじと見つめた。

(こいつ……まさか、知ってるのか!?)

だが、清光の表情はいつも通りだった。

「俺はさ、主が俺たちを大事にしてくれてるって、それだけで充分なんだよね」

「……」

不動はギュッと拳を握る。

(俺は……どうなんだ?)

今まで"ナマズオ族の主なんて認めねぇ"と思っていた。

でも、結局は人間だった……



「……」



清光と別れたあと不動は、庭の片隅にある石に座り、頭を抱えていた。

(これから、どう接すればいいんだ……!?)

正体を知る前は、なんだかんだ言いながらも"ナマズオ族の主"としてそれなりに付き合っていた。

でも今は、ナマズオマスクの向こう側を知ってしまったせいで、どう接していいかわからなくなってしまった。

(あぁもう、考えれば考えるほどわかんねぇ!!)

「——何を悩んでいる」

「うぉぁっ!?!?」

またもや突然声をかけられ、不動は飛び跳ねた。

「……」

そこに立っていたのは、山姥切長義だった。

「あ、あんたか……! びっくりさせんなよ……」

「ふむ。お前の方こそ、随分と浮かない顔をしているようだが?」

長義は不動を見下ろしながら、腕を組んだ。

「……何もねぇよ」

「そうか?」

「……」

長義は、不動の態度をしばらく観察していたが、やがて小さく笑った。

「……なるほど、君も気づいたんだな」

「……っ!!?」

不動の心臓が跳ね上がる。

「な、な、ななな、何の話だよ!!?」

「フフ……隠さなくてもいい。俺にはわかるさ」

長義は不敵な笑みを浮かべ、不動に近づいた。

「君、今までと主への接し方が変わったんじゃないか?」

「!!!」

「何か……決定的なものを見てしまった、とか?」

「!!?!?!?!?」

長義の言葉に、不動はますます混乱する。

(こ、こいつ、まさか俺が主のナマズオマスクの中身を知ったのを見抜いてるのか……!?)


長義は面白そうに微笑むと、不動の肩をポンと叩いた。

「まぁ、心配しなくてもいいさ。少しずつ、君の中で整理すればいい」

「……整理……?」

「今までの"主"のイメージと、これからの"主"のイメージを、どう折り合いをつけるか……それを考える時間は、まだあるんだから」

不動は、長義の言葉を聞いて、ギュッと拳を握った。

(……そうだよな)

(オレは、今まで通り接するべきなのか……それとも……)

「……ちくしょう、面倒くせぇ……」

思わずそう呟く不動に、長義はクスッと笑った。

「フフ、頑張れよ?」