加州清光と別れた後も、不動行光の心はモヤモヤしていた。
(信じるって……そんな簡単にできるもんじゃねぇだろ)
悶々としたまま歩いていると、いつの間にか薩摩の本丸の近くにある川辺まで来ていた。
夜の静けさの中、月の光が川面に反射してゆらゆらと揺れている。
(……少し頭を冷やすか)
そう思って川の方へ近づこうとしたその時——
「……?」
不動の足が止まった。
川辺に誰かがいた。
それは——審神者だった。
「なんで、主がこんなところに……?」
不動は思わず物陰に隠れ、じっと様子を伺った。
ギョリイは、川の水面をじっと見つめている。
どこか疲れたような、寂しげな背中だった。
(……さっきのこと、気にしてるのか)
不動は少し胸が痛くなったが、声をかけるタイミングを逃し、じっと様子を見守ることにした。
すると——
「……ふぅ」
ギョリイが、ゆっくりと ナマズオマスク に手をかけた。ぽろん
(……え?)
不動は目を見開いた。
次の瞬間——
ぽろん
ナマズオマスクが外される。
そして、不動が見たのは——
"人間"だった。
「……え?」
不動の頭が真っ白になる。
(な、なんだよ、これ……!?)
ギョリイは、川の水面に映る自分の顔を見つめ、静かにため息をついた。
「……今日も、バレなくてよかったっぺな……」
小さく呟くその声は、確かに審神者のもの。
でも、今までの"ナマズオ族"の主の姿ではない"人間"だった。
(主は……ナマズオ族じゃなくて……人間……!?な、何を見ちまったんだ、俺は!?)
鼓動が一気に早くなる。
(これ……俺、知らなかったことにした方がいいよな……!? いやでも、もう見ちまったし……!!!)
パニックになりながらも、どうすることもできず、ただその場で固まる不動。
一方のギョリイは、ナマズオマスクをもう一度被り直し、「よし」と小さく呟くと、本丸の方へ歩き始めた。
不動は、しばらくその場から動けなかった。
(……マジかよ……!!!)
不動は、物陰に身を潜めたまま、心臓が爆発しそうになっていた。
(オレ、見ちまったよな……いや、見てねぇ! いや、でも……くそっ!)
ギョリイがナマズオマスクをかぶり直し、本丸へ戻っていくのを見届けると、不動はようやく足を動かし、川辺にへたり込んだ。
「……嘘だろ……」
頭を抱え込む。
(主……ナマズオ族じゃねぇ……しかも、人間だったなんて……!!!)