不動行光は、本丸の中庭にひとり座り込んでいた。
拳を握りしめ、悔しそうに唇を噛む。
(……オレは、間違ってねぇよな)
「……ったく、ガキだねぇ」
不意に、背後から気だるげな声がした。
不動が顔を上げると、そこには加州清光が腕を組んで立っていた。
「……なんだよ」
「なんだよ、じゃないでしょ。さっきずいぶん派手に怒鳴ってたじゃん」
清光は不動の隣に腰を下ろすと、足を投げ出しながら言った。
「“ナマズオ族の主なんて認めない”ってさ。本気でそう思ってんの?」
「……」
不動は答えなかった。
「他の本丸の主は、人間だろ? なのに、ここは…あんな得体の知れない奴で……従えっていうのかよ……納得できるわけねぇだろ」
清光は、ふっと鼻で笑う。
「バッカじゃないの?」
「はぁ!?」
不動が睨みつけるが、清光は軽く肩をすくめた。
「だってさ、認めるも認めないも、もうずっとあの主の下で戦ってきたんでしょ?」
「それは……!」
「あの主、面白いじゃん」
清光は、夜空を見上げながらくすっと笑った。
「主がどんな姿でも関係ない。だって、主は俺たちのことをちゃんと大事にしてくれてるんだからさ」
不動は、清光の横顔をじっと見つめた。
「……お前、信じてんのか? あのナマズオ族の主を」
清光は、ふっと笑って不動を見た。
「当然でしょ? あの主、すっげぇ不器用だけど、俺たちのこと、マジで大事に思ってんじゃん」
「……」
不動は拳を握りしめ、悔しそうに俯いた。
「……オレだって、それはわかってるよ。でも……でも、どうしても納得できねぇんだよ」
清光は小さくため息をつく。
「ま、あんたが納得するかしないかは勝手だけどさ……でもさ、行光」
「……なんだよ」
清光は、じっと不動の目を見て、静かに言った。
「“信じる”ってのは、理屈じゃないんだよ」
「……!」
不動の目が揺れる。
「ま、俺は俺の好きな主を信じるだけ。行光も、よく考えなよ」
清光はそう言い残し、すっと立ち上がった。
不動は何も言えず、その背中をただ見送ることしかできなかった。
(……信じる、か)
静かな夜風が吹く中、不動はひとり考え込んでいた。