産経新聞1面「世界裏舞台」今日は、佐藤優さんだった。「日露『裏チャンネル』創設」というタイトルで、興味深い分析をしている。全文紹介したい。

 安倍晋三首相の政治決断により、北方領土問題は解決に向けた歩みを着実に進めている。
 1日、アルゼンチンのブエノスアイレスで、安倍首相とプーチン露大統領が会談した。時間は45分で、テ・タテ形式(通訳以外は首脳だけの1対1)の会談ではなかった。
 ウクライナ情勢が緊迫し、ロシアと欧米諸国の関係が緊張している状況であるにもかかわらず、日露関係は順調に進んでいる。会談後のブリーフィング(説明)で、記者の「(ロシアがウクライナ艦艇を拿捕=だほ=した)ケルチ湾事件について安倍首相が懸念を述べた際にプーチン大統領は何と言ったか」という質問に対して、野上浩太郎内閣官房副長官は「先方の発言について紹介することは差し控える」と答えた。ケルチ湾事件が北方領土交渉に悪影響を与えないように首相官邸が細心の配慮をしていることがうかがわれる。
 安倍首相とプーチン大統領は、北方領土交渉を行う新しい枠組み(協議体)を作ることでは合意した。新しい枠組みの交渉責任者は、日本側が河野太郎外相、ロシア側がラブロフ外相になる。その下で、交渉担当者には両国首脳の特別代表として森健良(たけお)外務審議官とモルグロフ外務次官をあてることになった。特別代表の名称を付与して、レトリックで取り繕っても通常の外交ルートで北方領土交渉を進めていくということだ。
 もっとも、2012年12月に第2次安倍政権が成立してから、両国外務省によって北方領土交渉を進めているが、目立った前進はなかった。新しい枠組みを作っても、従前のスタイルで交渉を続けるならば、交渉の突破口を開くことはできない。
 ブエノスアイレスでの記者会見でプーチン大統領が興味深い発言をした。ロシア大統領府の公式HPに掲載された速記録(ロシア語)から正確に翻訳すると以下の通りになる。
 「われわれは日本と1956年の日ソ共同宣言に戻ることで合意した。それについては(11月14日の)シンガポールでの首脳会談の後、公にした。今回、われわれは交渉の追加的メカニズム(複数形)を創設する必要性と、人的交流と経済関係を拡大させながら信頼関係を向上させる必要性について話した」
 ここで重要なのは、プーチン大統領の「交渉の追加的メカニズムを創設する必要性」という発言だ。特に「追加的メカニズム」に複数形が用いられていることが興味深い。河野・ラブロフ両外相、森外務審議官・モルグロフ次官による公式の枠組みとは別に、これまでには存在しなかった新しいメカニズム、すなわち「裏チャンネル」を創設したことを意味するものだ。ロシア語で「メハニズム(メカニズム)」というと、確実に動くという意味がある。
 「裏チャンネル」のメンバーが公にされることはない。ただし、注意深く観察すれば、メンバーが見えてくる。シンガポールでの日露首脳会談には、異例なことであるが、外務省の秋葉剛男事務次官が同席した。
 今後、秋葉氏が北方領土交渉に従事することが死活的に重要になるので裏チャンネルに加わると思う。さらに安倍首相の信任が厚い今井尚哉(たかや)首相秘書官が加わることも不可欠だ。ロシア側ではプーチン大統領の外交実務を大統領府で担当するウシャコフ大統領補佐官を外すことはできない。
 両国外務省による表チャンネルと並行して、裏チャンネルを通じた首相官邸とロシア大統領府の踏み込んだ直接交渉も行われることになると思う。
 今後の交渉は、徹底的に情報を秘匿しながら行われることになるが、事情についてよく知らない両国の政府高官が不用意な発言をして世論を刺激することがある。また安倍首相もロシアに対して厳しい発言をしなくてはならないことがある。そのときに報道を通じた発言で日露関係が悪化しない仕組みについてもブエノスアイレスでの首脳会談で合意したとみられる。河野太郎外相が、国会の質疑や記者会見で北方領土交渉について口を閉ざしていることも、交渉がもっとも重要な段階に至っているからだと筆者はみている。河野外相も北方領土問題の解決に向けて政治生命を賭していることが筆者には伝わってくる。

 私も佐藤さんと同じ見立てである。「チーム安倍」が、元島民、戦後の課題解決、国益の為に、体を張っていると受け止めている。
 必ずや安倍総理は日露平和条約締結という偉業を成し遂げてくれる、歴史をつくられると確信している。