この間、一の谷(鉄拐7番地)の方で大きな火事があった。
須磨浦のロープウェイに乗って、景色を眺めながら、「あの建物はなんだろうね?」などといっていた観光名所の建物が全焼したのだそうだ。
今も、火災原因は発表されていないようで、調査が続いているらしい。
新聞報道などによると、鉢伏山を焼き尽くすかのような大きな火柱が上がり、その炎は三宮方面からも見えたという。
古くから住む知人によると、一の谷の内裏跡のある辺り(正岡子規が滞在した場所から内裏跡へ続く坂道〈崖?〉)からは、阪神淡路大震災の時には、神戸市街を焼き尽くすような火災の大きな炎が見えだそうで、思い出しただけで、震えがくるそうだ。
阪神淡路大震災の当時は、神戸空襲の光景を思い出したという方もご存命だったという。
炎は、恐ろしいものだ。
消防庁の発表によると、
消防庁が発表した『平成24年(1月~12月)における火災の概要』によると、総出火件数は、4万4,102件。おおよそ1日あたり120件、12分ごとに1件の火災が発生したことになるとあります。種別では、建物火災が2万5,525件、車両火災が4,534件、林野火災が1,176件、船舶火災が86件、航空機火災が1件、その他の火災が1万2,780件でした。総出火件数を出火原因別にみると、第1位は「放火」で5,340件(12.1%)ですが、続いて多いのは「たばこ」で4,192件(9.5%)。以下、「コンロ」3,941件(8.9%)、「放火の疑い」3,184件(7.2%)、「たき火」2,425件(5.5%)の順になっています。
とあり、第1位の「放火」5,340件(12.1%)と「放火の疑い」3,184件(7.2%)を足すと、19.3%になり、5件に1件は放火ということらしい。
最近は、震災による大火などの時にだけ問題にされがちだが、むかしは、飛び火火災というのが多かったそうだ。
昔は、「飛び火火災」が多くあり、特に「煙突」「汽車」からの「火の粉による火災」としも取り上げられており、、昭和30年代の統計ではかなりの件数があり、「風呂屋の煙突」だけでもそれなりの数字が計上されている。
とあり、むかしは「飛び火火災」もメジャーな火災原因だったという。
東京消防庁も、「『対岸の火事』というと自分には無関係のことの例えですが、現実の火災ではまったく当てはまらない言葉です。というのは飛び火の恐ろしさが忘れられているからです。 」と、飛び火の恐ろしさについて書いている。
飛び火は、火災の現場からだけ発生するものではありません。 ふろの煙突から出る火の粉、電気のスパークによる火花、たき火から舞い上がる火の粉などが飛んで、火災となる例も多いのです。
火の粉といっても大きさはいろいろで、数ミリのものから数十センチメートルに及ぶものもあります。 飛距離は、ふつうは50から200メートル位ですが、2キロメートル以上の遠くまで飛ぶこともあります。
と。
「たき火から舞い上がる火の粉などが飛んで、火災となる例も多い」「飛距離は、ふつうは50から200メートル位で」「2キロメートル以上の遠くまで飛ぶことも」あるそうだ。
大火の時の燃え盛る炎による飛び火火災は、飛び火が原因であろうと推測しやすいが、焚き火からの飛び火火災の場合、焚き火から少し離れた場所で起こると、因果関係を証明することは不可能ではないだろうか。
その場合は不審火や「放火の疑い」ということになるのだろうか?
「火のない所に煙は立たぬ」というが、
飛び火によって、火の気のないところで火災が起きてしまうと、まるで怪談だ。
そんなこともあってか、
小泉八雲の短編に振袖火事(明暦の大火)を題材にした「振袖」という怪談がある。
小僧たちは火をたいて、そのなかへ衣裳を投げいれた。ところが、その絹の衣裳が燃えだすと、とつぜんそのうえに、目もくらむような炎の文字――「南無妙法蓮華経」という題目があらわれた。そして、これは一つ一つ、大きな火花のようになって、寺の屋根へ飛びあがり、寺に火が燃えついた。燃えあがる寺から、燃えさしが、やがて近所の屋根におち、すぐさま街じゅうが火炎につつまれた。そこへ、海風がまきおこって、さらに遠くの街々までも、火炎を吹きつけ、猛火は街から街へ、区から区へとひろがっていって、ついには、ほとんど江戸の街全体が、焼けくずれてしまった。明暦元年(一六五五年)一月十八日におこったこの大火は、「振袖火事」として、東京で今もなお、記憶されているのである。
この作品は明暦の大火の原因を怪談として伝えたものだが、科学的に解釈すれば、明暦の大火は、焚き火による飛び火火災を原因とした大火であったことの伝承で、それに対するいましめということになるだろう。
現在、この焚き火がブームなのだそうだ。
焚き火のポジティブな面を強調したがる方々は、飛び火による危険より、「焚き火がもつ癒し効果」を強調されているようだ。
衣食住に加え、火がもつもう一つ重要な要素が心のやすらぎです。山の中など文明から遠く離れた環境に身を置いたとき。災害など通常の社会生活を営む事ができない状況になったとき。人はストレス、不安、孤独を感じます。そんなとき暗闇の中で灯る明り、じんわりとした暖かさ、料理の美味しい香り、炎のゆらめきと薪の爆ぜる音が心を癒やしてくれます。焚き火がつくるこれらの要素が心の落ち着きを取り戻してくれます。
などと書いてある。
「山の中など文明から遠く離れた環境」「災害など通常の社会生活を営む事ができない状況」での焚き火の効果ということだが、
昨今は、庭で、焚き火(キャンプファイヤーのような大きな炎)をする輩も多いそうである。
この場合は、いやしというより、日常生活におけるストレスの解消ではないだろうか?
『平成22年版 犯罪白書』によると、
放火について,主たる動機の別及び主たる放火目的物(犯人が放火の対象物として最も強く意識していた物)の別に人員を見たものである。主たる放火目的物としては,他人の住宅が最も多く,次いで本人宅が多かった。また,主たる動機としては,憤まん・怨恨によるものが最も多いが,次いで,不満・ストレス発散のためのいわゆる愉快犯も多かった。
https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/57/nfm/n_57_2_7_2_1_1.html)
のだそうだ。
「憤まん・怨恨による」放火も「憤まん・怨恨による」ストレスを解消することを目的としたと解釈すれば、放火の動機の殆ど(約65%)は不満・ストレス発散のためということになる。
年に1回、
左義長(とんど焼)
や、校庭でキャンプファイヤーをすることはあるかも知れないが、
毎週末、自宅の庭で数メートルの炎が上がるような焚き火をするお宅が、近所にあったら、頻繁に大きな炎を眺めてストレスを解消しないといけないって、どれだけストレスを抱えた人が住んでいるんだろうと、地域社会が不安に包まれることだろう。
大きな炎を見てストレスを解消する心理は、放火犯の心理と変わらない気はするが、所有地で法令を守って焚き火をする限りは、注意して見守るよりほかない。
もし、法令を無視するような焚き火をする輩がいたら、犯罪心理学の対象になるような心理の持ち主だろうから、関わらないのが一番だ。
焚き火で強く印象に残っている話がある。これは知人から聞いた1970年代の兵庫県西部での話しだが、一家心中したお宅のご主人が、庭に設置した錆びついたドラム缶焼却炉でゴミを燃やす姿が頻繁に見られたそうだ。※奥さんが小学生と中学生の娘さん二人を殺害、直後に奥さんに依頼されたご主人が奥さんを殺害し、死にきれなかったご主人が逮捕されるという事件があった。情状酌量されたそうだがご主人は刑期を終えたあと、すぐに自殺されたそうだ。
頻繁に焚き火をしたくなる衝動というのは・・・
話がそれたが、
「火災とまぎらわしい煙又は火炎を発するおそれのある行為」
には、通常は申請が必要だ。
土浦市消防本部のサイトでは
「『火災とまぎらわしい煙又は火炎を発するおそれのある行為の届出書』は焼却行為を許可するものではありません!!」との注意書きがすぐ見つかるが、神戸市のサイトでは注意書きが見つけられなかった。
「焼却行為を許可するものではありません!!」というのは、無許可のリサイクル業者が、建築廃材(産業廃棄物)などを、バーベキューやキャンプファイヤーと称して焼却(最終処分)するのを許可したわけではないという意味と思われる。
福岡県の遠賀郡消防本部のサイトでは「火災とまぎらわしい煙又は火炎を発するおそれのある行為の留意事項」として、
遠賀郡内の各町においては、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」により、廃棄物の焼却は禁止されています。また、住民から煙、異臭等による苦情も多発しています。よって、当該届出の廃棄物が一般廃棄物の場合は関係市町村へ、産業廃棄物の場合は遠賀保健福祉環境事務所へ本届出書を持参し、指導を受けて下さい。
と書いてあり、わかりやすい。
神戸市のサイトは、焚き火のネガティブな部分がヒットしにくくなっているような印象を受けてしまう。
神戸市では、焚き火を推奨しているので、なんらかの意図が働いているのかもしれない。
神戸市は、焚き火による火の粉を原因とした飛び火火災を甘く見すぎているのではないだろうか?
「焚きビギナー」に火の楽しさ(愉快犯的快楽?)を教えるより、火の恐ろしさをしっかり、教えておいた方がよいのではないだろうか。
諸説ありますが、人類が最初に手にした火は自然火災によってもたらされたものだと考えられています。
といわれているが、
これは、自然火災を模倣して(学んで)、人間が火を使うようになったということであるから、就学期(模倣や学習が習慣化している?)の子供が模倣して、火遊びをする可能性を高めることになりはしないか心配だ。
という記事には、
5人は同じ中学校の遊び仲間で、当日は山林でたき火をし、その上を跳び越える遊びをしていたという。同署の調べに対し「どんどん火が大きくなって消せなくなってしまった。消防車のサイレンの音が近づいてきたので怖くなって逃げた」と話しているという。
とある。子供は模倣したがるものなので、焚き火の癒し効果などポジティブな面だけを宣伝するのは、無責任である。喫煙の危険性を明示するように、焚き火の危険性を明示すべきだろう。
とにかく、火事は怖いし、焚き火も危ない。
神戸市が焚き火を推奨している時期なので、一の谷(鉄拐7番地)の火災(亡くなられた方がいらっしゃるそうだ)が、焚き火による火の粉を原因とした飛び火火災でないことを祈りたい。