稲川淳二の「クラス会」


 稲川淳二の怪談に、「クラス会」という話がある。

 … 稲川さんの友人に、あるテレビ局のディレクターがいて、彼が24歳の時経験した出来事だそうだ。
 彼は富山県の出身で、大学のときに東京に出てきて、そのままテレビ局に就職して、東京で暮らすようになった。その彼に、故郷の富山の同級生からはがきが来て、その夏のお盆休みにクラス会を開くから出席しないかという話だった。それで彼、二、三年実家に帰ってないから、これを機会に久しぶりに帰ってみようと決めた。彼、まだそれほど収入はなかったけれど、一応自家用の車は持っていた。そこで、今度はこの車で帰省することにした。
 その当日、朝早くに東京を出発して、富山に向かった。東京から富山まではかなり遠いので、実家の富山に近づくころには、もう夕方になっていた。で、若草山という山の中の道にさしかかった。この山を越えると、もう富山市内に入る。その道を走っていると、前の方を若い女の人が歩いている。周りには自分以外の車は通っていない。その寂しい山道を、女が一人で歩いている。あの人は何をしているんだろう。車でも故障して、それで歩いているのかなと思った。そこで彼、声を掛けた。
「あの、乗っていきませんか。」
すると彼女、うれしそうににっこりして、
「ありがとうございます、助かります」
と言って、車に乗り込んできた。彼、きれいな人だなと思ったけど、なんか見覚えがあるので、
「あの、失礼だけど、加藤さん?」
と言うと、
「ええ」と答える。
「やっぱり。オレだよ。平田だよ。」
「ええっ、平田君。」
 何のことはない。彼が乗せたのは、同級生の加藤しのぶという女性だと分かった。それで急に話が盛り上がって、我然この帰省が楽しいものになった。 明日のクラス会には彼女も出席するということで、彼女の家の前で分かれた。
 彼、るんるん気分で実家に着いて、その夜は家の者と酒盛りをして盛り上がった。
 その翌日、クラス会のある何とか会館に着くと、同級生が大勢集まって、旧交を温めあっていた。彼もいろいろなクラスメイトに挨拶していたが、ある楽しみがあってそわそわ落ち着かない。それであちこち見回していると、友達の一人が、
「誰か探しているのか」
と言うので、
「いや、加藤しのぶな、おまえ見なかった? 昨日会ったとき、今日クラス会に出るって言っていたんだけどな。見えないんだよな。」
 「おまえ、それ本当か?」
「本当だよ。昨日若草山のところで車に乗っけて、送ってきたんだよ」
「ははぁ。おまえ東京にいて、こっちにいなかったろ。だから知らないんだろうけど、加藤しのぶな、三年前に亡くなったんだぜ。 東京の大学に行ったんだけど、体悪くしてこっちに帰っていたんだけど、亡くなったんだよ」
「じゃ、オレが見たのは…」
「ああ。おまえ、若草山って言った?」
「若草山だよ」
「なるほど。あそこには加藤の家のお墓があるんだよ。」
 あまりことにボーッとしていると、友人が、彼の肩のところに手をやって、長い髪を指でつまみあげて、
「加藤しのぶ、もう来ているかもしれないな」
と言った。

 この話を聞いて、わたしは、怖いという気持ちはなかった。ただかわいそうだなという気持ちになり、彼女の無念さを思いやるばかりだった。
 彼女は人生の門出に立ったばかりで、未来の希望や夢にあふれていただろうに、その矢先に病魔に倒れ、一切の希望を断念しなければならなかった。その心残りが、同級生の彼の元に現れて、かすかにその存在をかいま見せた。彼女もまた、クラスメイトたちとともに、生きて未来の夢や希望を語り合いたかっただろうに。そのことを思うと、彼女の無念さに哀れを感じないではいられない。