上がっていくと、山の上の少し開けたところに出た。周りは草地だが、参道のところはむき出しの地面になっていて、奥まったところに小さな祠がある。その祠の両脇には狐の置物がある。それでこれは稲荷を祀った祠だと分かる。何の変哲もない小さなお稲荷さんだ。しかしその祠の前の、少し広い地面には、何脚かの折りたたみ椅子が、二列に置かれて並んでいる。ということは、ここで集まって、祭りのようなことをやっていた人たちがいたのだろう。たぶんこの近辺で、この稲荷を信仰する人たちがいて、その人たちが、何かの折々にはここに集まって、祭事を行っていたのだろう。その信者の人たちが、例の赤いのぼり旗を奉納して、参道に並べて飾ったというわけだ。
 山の上を探索して、あののぼり旗の由来は分かった。そしてこの山の名前は、日向山というのだということも。それは、道路にこの山の名前を記した看板があったので。というわけで、ちょっと心に掛かっていたあの疑問は、この現地を訪ねることで、解けたわけだ。

 しかしこの日向山には、この根岸稲荷だけではなく、べつにいくつかの神社、というか祠がある。その一つは、山の上ではなくて、麓にあって、舗装道路に広がった住宅地にすぐ接している。名前は何というのか分からない。それは日向山の北側、地名は枡形というところにある。この枡形というところを、あるときポスティングして歩いていた。
 それは6月ごろ、ちょうど梅雨時で、雨が降ったり止んだりしていた。午後早い時刻なのに、もうあたりは夕方のように薄暗かった。そのあたりは本当の住宅街で、大きなビルはなかった。その通りを歩いて、一戸ずつチラシを配っていた。そのとき、山のすぐ近くの舗装道路を歩いていると、二軒の住宅の突き当たりに、鳥居が立っているのに気づいた。その鳥居の背後は、うっそうとした森が広がっていて、山の斜面が迫っていた。薄暗くてよく見えないのだが、その奥には小さな祠らしい建物があった。わたしはこの鳥居の向こうの暗闇に、何か怖い世界が広がっているような気がした。この鳥居の向こうには何かいそうだな、わたしはそんな気がした。
 鳥居のこっち側は、人が住んでいる、当たり前の、明るい世界なのだが、鳥居の向こう側は、暗い、物の怪が蠢いている世界、そんな感じだった。うっそうとした山の森には、平地の人間の住む世界とは違う世界がある。それは神社の世界で、人間以外の、物の怪とか神とかいうものの住む場所、そんなふうに表現したらよいだろうか。