キンモクセイの匂い

   三森至樹

 朝目を覚まして窓を開けると
 さわやかな空気が部屋に流れ込んできた。
 その中にかすかにいい匂いが混じっていた。
 キンモクセイだと気づいた。

 今は十月の下旬だが
 これまでは夏の暑さが続いていて
 いつも窓を開けるとムッとする空気が来て
 すぐに窓をしめたものだった。
 しかし今朝はようやく気温も下がり 
 さわやかな空気を楽しめるようになった。
 その中にかすかだがキンモクセイの匂い。
 ますますいい気分だ。

 しかしこの匂いはどこから来るのだろう。
 この近くには今はキンモクセイの木はないはずだ。
 かすかな匂いだからどこか遠くにあるのだろう。

 そういえば思い出した。
 五、六年前まで窓のすぐそばにキンモクセイの木があった。
 そのころは九月になると激しく匂っていて息苦しいほどだった。
 それがいつの間にか切り倒されて、なくなってしまった。

 さらにその前
 今のアパートに移ってくるまでは
 八清公園のそばの小さいアパートに住んでいたのだが
 その頃にも道路のわきにキンモクセイが植わっていて
 九月には盛んに匂っていた。
 そのころはまだ歩けていて
 通勤途中にその匂いを嗅ぎながら
 木のそばを通り過ぎるのだった。

 今朝部屋に入ってくるかすかなキンモクセイの匂いを嗅いで
 その木ににまつわる思い出がよみがえってきた。