南座で鴈治郎と隼人の角力場 | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

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南座での十三代目團十郎白猿の襲名披露、吉例顔見世興行は昼の部に続いて、夜の部に行きました。

人気演目の「双蝶々曲輪日記」から、濡髪長五郎と放駒長吉の意地がぶつかる、「角力場」です。

 

賑やかな角力小屋にやってきたのは、遊女の吾妻。 何回も演じている壱太郎が、しっくりはまっています。

恋仲の与五郎に、肩を寄せ膝をすりすり。 甘えた声で身請けの話。 余裕の色気で、舞台を支配します。

 

お相手の与五郎には、初役の染五郎。 細身でうつむき加減の首が、まさにつっころばしにぴったり。

前半ずっと出っ放しで、雰囲気を出すキーマン。 なんじゃいなあ、お父さんのはんなりさは、これから。

 

相撲小屋は、押すな押すなの大入り満員。 結びで、濡髪が長吉に負ける、大番狂わせ。

長吉勝ったと浮かれる客と、むっつり腕組みで出てくる客。 上方役者による大騒ぎに、雰囲気があります。

 

で、小屋から出てきたのが、隼人の放駒長吉。 新作もいいけれど、世話物にもしっかり取り組んでほしい人。 

元は米屋の倅、やんちゃな若造が褒めそやされての浮かれ気分が、よく出ています。

 

そうして、濡髪長五郎。 貫禄が必要ながら、単純な演じ方だと内面が見えなくなる、結構難しい役。

鴈治郎が、どんと構えて、がなる癖を押さえて相撲言葉をくっきりと話す。 ここは役者の技です。

 

対する贔屓の与五郎は、これでもかというくらい、負けた濡髪をなじる。 さっきよりも、染五郎に上方味。

鴈治郎を信頼して、ぶつかっている感じがいい。 上機嫌で、茶屋の亭主に何でもあげてしまうところは、大笑い。

 

濡髪に呼び出されて、長吉が来たところからクライマックス。 お互いの恩人のための、際どい駆け引き。

恩を売るために勝たせてもらったと思った、長吉が大あばれ。 上ずり気味の声と、興奮した様子が工夫。

 

対する濡髪も、落ち着いているようで、段々とかっかしてくるのが面白い。 ここは、天然の鴈治郎。

対照的な二人の、真面目な喧嘩が、どこかユーモラス。 隼人を受けとめる、鴈治郎の大きさよ。

 

脇がしっかりして、引き締まった芝居でした。 壱太郎のお伴の仲居、竹之助と春之助が手堅い。

そうして、吾妻、与五郎、濡髪などの用事をてきぱきこなす、茶屋の亭主。 千次郎に安心でした。