国立劇場のさよなら特別公演は、2ヶ月にわたる歌舞伎の、「妹背山婦女庭訓」通し狂言です。
ちょうど4月と7月に、文楽の通し狂言を観たばかりなので、それぞれの違いと良さがよく分かります。
では、本歌舞伎では7年ぶりの「吉野川」。 その時の定高と大判事は、玉三郎と吉右衛門でした。
今回は、時蔵と松緑。 玉三郎に肚を教わり、大役を演じる喜びを感じるとは、初役の時蔵です。
対する松緑も初役。 時蔵から指名されて、怖いながらも、白鸚の助言をもらいながら勉強したとか。
今回の通し狂言は、ほぼ全員が初役。 それぞれの個性を活かしながらの新たな魅力に、期待します。
舞台中央には桜満開の吉野川。 川を挟んで上手に大判事邸、下手に定高の太宰館。
義太夫が上手と下手の両床になって掛合い。 場面ごとに両家の障子が開閉するのが、舞台の工夫。
太宰館に身を寄せる雛鳥。 恋に身を焦がす苦しみは、梅枝の得意なところ。 いつもの艶があります。
大判事邸に蟄居して、姿を見せるのが萬太郎の久我之助。 7年前の共演を財産にし、工夫が見えます。
そこに、館の道を表す仮花道から大判事、遅れて本花道から定高が戻ってきました。
足の運びと背中がどっしりした松緑、刀が腰にぴったりで風格の時蔵。 本心の探り合いの演技が熱い。
ここから、両家がお互いを思うあまりの悲劇が。
純愛を貫くために、入内より、首を斬られることを決意する雛鳥。 その頃、覚悟を決めた久我之助は自害を。
溢れるような純粋さと、自ら選んだ覚悟の強さ。 梅枝と萬太郎の持ち味に、より厚みが増したよう。
押し殺した感情をぐっと出す時蔵、本心を隠し通す懐の深さを見せる松緑。 二人の演技が、ますます熱くなる。
そうして、雛流しの名場面。 未來で夫婦となるために死を選ぶ若者と、それを見届ける老人二人。
川を隔てた、情の交感が重すぎる。 橘太郎、玉朗、荒五郎などを含め、役者の新たな魅力を感じた3時間でした。