菊之助の髪結新三に未来がある | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

ブログの説明を入力します。

歌舞伎座での團菊祭五月大歌舞伎、夜の部の続きは、「梅雨小袖昔八丈」、通称「髪結新三」です。

上演は、5年前の歌舞伎座での菊五郎以来。 菊之助は、6年前に国立劇場で挑戦して以来、2回目です。

 

2時間半近くの長編、筋はほぼ同じでも、座組とその相性の良さで、全く印象がちがってきます。

まず、白子屋見世先。 お熊と忠七には、手慣れた児太郎と新鮮な萬太郎。 困った様子のじゃらつきが、いい感じ。

 

狂言回しの車力善八には、菊市郎が抜擢。 これが、秀調以上に、律儀で臆病で真面目で、ぴったり。

後家お常には初役の雀右衛門で、これもぴったり。 特徴のしつこくない演技で、悩む母親をしっかり見せます。

 

そこにやってくる、新三。 足取り軽くやって来て、事情を察して店先で立ち止まり、様子をうかがう。

細身のすっとした立姿、端正な顔に悪の表情を浮かべ、何やら算段している。 そうして、忠七をかどわかす。

 

これで、一気に菊之助の新三に引き込まれます。 菊五郎と同じやり方ながら、太さを求めないありのままがいい。

これは、次の永代橋川端で、よりはっきりします。 雨の中、哀れな忠七に魂胆を明かし、悪の本性を見せる。

 

きれいな裾捌き、歯切れいい傘尽くしの台詞、しゃきっとした下駄の歩き方。 新しい新三の型が、見えたかも。

これは、次の新三内でも、同じ印象。 ちんぴらなんだけど、歩き方がかっこいい。 金払いもいいぞ。

 

下剃勝奴には、菊次が抜擢されて、菊之助をナイスフォロー。 今回の音羽屋は、新・菊之助劇団のよう。

弥太五郎源七には、彦三郎。 突出しぎみの人ですが、今日は新三にやり込められる役を、うまく演じます。

 

ここでも、下手に出ながら、上から来る親分をいてこます、菊之助がかっこいい。 菊次も、いいタイミングのフォロー。

これを上回る、やり手が家主・長兵衛。 これには、最近左團次のお役が板についてきた、権十郎です。

 

いつもながら怪演の、女房おかくの萬次郎と打ち合わせる時の、おもしろさ。 善八っつぁんも、これで安心。

菊之助と権十郎のやり取りは、ゆっくり慌てず、たっぷりと。 30両で料簡して、鰹は半分もらったんだ。

 

この間合いが絶妙。 筋を知っていても、取り合えずそれは忘れて。 ひょっとして半分もらうってのは、、、

大家さんにゃぁかわなねえや、、、、と、この落としに大笑い。 更に、大家さんの家に泥棒が入って、また笑い。

 

大詰は、深川閻魔堂橋で、菊之助と彦三郎が斬りあって、きりっと締まります。 そうして、今日はこれギリ。

菊之助の新しい魅力、新旧揃った周りの役者との相性など、江戸世話物での可能性を感じた、夜でした。