シネマ歌舞伎で野田版鼠小僧 | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

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シネマ歌舞伎で、「野田版 鼠小僧」を観てきました。

2003年の歌舞伎座上演、2005年の映画公開ですが、観るのは初めてです。

 

いきなり、江戸の町での鼠小僧の捕り物から。 屋根の上で、勘三郎の見得がキマッた。

と、思ったら、これは劇中劇。 勘三郎の役は、ずる賢くて、金儲けしか考えない、棺桶家の三太。

 

正月早々、年寄りを見つけては棺桶の算段、縁起の悪い台詞の連発で、町中から嫌われている。

そんな三太の兄が死んで、遺産が入ると思いきや、なんと善人と評判の、赤の他人の與吉が相続することに。

 

ここから芝居は、大騒ぎ。 パワーあふれた勘三郎が、滑ろうと、落ちようと、おかまいなしのギャグ連発。

兄嫁の扇雀、その後婿の彌十郎、娘の七之助が、負けずと大はしゃぎ。 もう、台本だか、アドリブだか。

 

この時代ならではの、ドリフばりのボディーアクションもたっぷり。 突飛ばされて、吹っ飛ぶなんて、しょっちゅう。

とにかく、じっとしていないのが勘三郎。 右へ左へ走り回って、舞台転換が間に合わないほど。

 

善人そうな與吉には、芝翫。 ギャグはいまいちでも、いいポジション。 実は、これが悪い奴。

三太の兄には、獅童。 今もそうですが、ぶっ飛んでいそうで、芝居を外さない笑いが、頼もしい。

 

さあ、三太は大名屋敷から、千両箱を盗み出せるのか。

と、ここに、大岡越前、その愛人の後家さん、浮気を怪しむ越前の妻が加わって、更にややこしくなる。

 

越前には三津五郎、後家には福助、妻には孝太郎。 どうやら、そこに、與吉もからんでいそう。

どたばたの挙句に、三太がつかまり、白洲のお調べに。 ここから、野田版特有のシリアス調になります。

 

その気もないのに、鼠小僧の振りをする三太。 それに乗じて、自分の身を守る、越前たち。

損な役を、勘三郎がしっかり務めます。 笑いの後に、さらっとした涙を誘う演技が、上手いんです。

 

一人だけ、真面目なのが、目明しの勘九郎。 何にも知らずに、鼠小僧を追い回し、決着をつけます。

研辰もそうでしたが、あれ、ひょっとしてと思わせて、あっけなく終わるのが、野田版の特徴。

 

今は故人となったり、廃業したりした、懐かしい人たちが観られるのが、うれしい。

鼠小僧を待ち続ける、與吉の息子には、当時9歳の鶴松。 勘三郎が大切にしているのが、よくわかります。