松竹座で幸四郎の伊勢音頭 | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

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大阪松竹座の七月大歌舞伎は、短期間興業でしたが、無事に千秋楽となりました。

これに何とか間に合って、昼の部、夜の部、通しで行ってきました。 (ちょっときつい。)

 

松竹座は不思議な所で、何をやっても、上方の匂いがぷんぷんします。

まるで、芝居小屋が役者を染めているよう。 それを強く感じたのが、今回の「伊勢音頭恋寝刀」です。

 

福岡貢は、4年前の歌舞伎座に続いて、幸四郎。 同じく仁左衛門の指導ですが、印象は全く違います。

前回は、技では出せない匂いを、必死で出そうとしていたよう。 今回は、肩の力が抜けた、いい貢。

 

弁慶もいいけれど、もともと、ぴんとこなが、ニンの人。 ふにゃっとしてそうで、色気があって、強みもある。

万野にいびられ、お紺に愛想尽かしをされて、段々と激昂していきながらも、気品を保っているので崩れない。

 

白地に十の字餅の着物が、さっぱり。 きれいに剃られた、月代が清潔。 動きに、芯のある柔らかさ。

おお、これこれ。 今回は、ちょっと贅沢して1階席。 これが当たりで、幸四郎の良さが、よくわかります。

 

もちろん、歌舞伎は、他の役者とのバランスが大切。 今回は、それぞれが個性的過ぎました。

それでも、ぎりぎりで不思議な調和の、上方味がする。 これが、松竹座の、なせるわざなのか。

 

お紺は、壱太郎。 周りの空気を読みながら、貢をだます演技をするところが工夫。

悪態をつきながら、悪人に覚られないように、様子をうかがう。 ちらちらと、貢への愛情を見せる。

 

万野は、初役で扇雀です。 玉三郎、菊五郎、時蔵、猿之助(!)と、みなさん様々で、決まった型はなし。

扇雀は、ビシビシ攻めてくるタイプ。 万野の生きざまが見えにくい演技でしたが、これもまたいいかも。

 

盛り上がったのは、鴈治郎の登場。 きらりーん。 今回は、鳰照太夫ではなく、お鹿さんです。

顔を出した時から、笑いのじわ(?)。 久しぶりにじっくり観るがんじろはん、ええ味出してはります。

 

わたしゃ貢はんに惚れました、こんなん呼んだて何やねん、そりゃ胴欲じゃ、鹿さん紺さん仲良しさん、、、

貢への手紙を見せるところでは、出前の注文票やら、おちょやん人形やら、番組表やらのアドリブで、大爆笑。

 

さて、一番好きな場面は、貢、お紺、お岸、仲居たちと万野、悪者が揃う、油屋店先なんです。

仲居で、嶋之亟、千壽、祥馬、翫之、鴈洋、りき彌、幸之助など、上方勢が揃うのが松竹座にぴったり。

 

その中で、高麗屋の幸雀。 ひょっとして、万野以上に意地悪な千野で、技を見せてくれました。

さあ、団扇に注目。 場面に応じて、全員で使ったり、お岸だけが使ったりの小技、静動の型がうつくしい。

 

柔らかい万次郎の孝太郎、声色が従兄に似たお岸の虎之介、寝姿のいい悪者の寿治郎が、いい。

貫目が必要な、料理人喜助には、初役の隼人。 まだまだ勉強ですが、仁左衛門の教えは貴重かも。

 

前半はゆったり進んだ、店先の場。 後半の奥庭では一気に展開が速くなります。

伊勢音頭の場面がなく、奥庭の殺し場が浮き気味でしたが、しゅっと引き締まった松竹座でした。