暖かなネオンとイルミネーションに彩られ、冬の街は仮初(かりそめ)の温かさに包まれる。
一時だけの、この時だけの為に施された装飾達。そこここで溢れる音楽。着飾った若者達。
街は時間を追うごとに活気を増していた。
駅から程近いホテルの最上階。
そこに中々予約の取れないレストランがあった。
夜景の見えるレストランとして。
見た目にも舌にも美味しい逸品を提供するレストランとして。
またスタッフのスマートで品のあるサービスが良いレストランとして。
理由はいくつかあるが、やはり一番大きな要因は、値段に見合わぬ美味しさ。
あとは、スタッフのレベルが高いということ。これはレストランの大半の売り上げを占める女性客に大変好評なのだとか。
特に今日は「特別な日」という事もあって、何組ものキャンセル待ちを抱えている。
スタッフ達の目の回るような忙しさにも関わらず、店内では優雅な時間がゆったりと流れる。
ホールから一人のスタッフが厨房にオーダーの確認に来た。
「5番オーダー入りました。X'mas Bで。あと12番のデザートあがってますか?そろそろなんですが・・・」
慌しくシルバーとワインを揃えながら、青年は作業中のシェフに声をかける。
「12番すぐあがる。B了解」
「ありがとうございます。すぐ戻ります」
言い置き、トレーに一揃え乗せるとさっとホールに戻って行った。
足音も立てずテーブルの間を縫うように歩き、窓際のテーブル席に着くと、青年はにっこりと微笑み
「失礼致します。テーブルのご準備をさせて頂きます。こちら食前のワインでございます」
と言うと、慣れた仕草でグラスワインを置き、続いてシルバーを音も立てずに並べると一礼して去った。
その際、店内の中央辺りのテーブルをチラッと確認し、そちらへ向かう。
「失礼致します。ただ今デザートをお持ち致します。こちら、お下げしてよろしいでしょうか?」
横に寄せられたディッシュを手のひらで指して確認を仰ぐと、女性は勢い込んで笑顔で答えた。
「はい。ぜひお願いします」
女性の前に座っていた男性はチラリと青年スタッフを横目に見やった。
黒いパンツに黒いギャルソンエプロン。白いシャツに黒いタイ。同色のベストをしなやかに着こなし、明るい茶髪を黒のリボンでまとめ、理知的な瞳にシルバーの眼鏡をあわせた、文句なしのイケメン・・・
男性は後悔と共に、ひっそりとため息をつくのだった。
(今日は何だかこういうカップルのお客が多い店内だな)
知ってか知らずか、スタッフは手際よくトレーにディッシュを乗せると一礼して戻ってゆく。
厨房に戻り、12番のデザートを運び、5番のセットを運び、新規オーダーを言いに厨房に戻ったところで、ホール部長に声を掛けられた。
「千秋お疲れサン。ひと段落ついたから休憩入っていいよ。まかない山さんに頼んでるから用意してもらって」
肩をポンと叩かれて、張り詰めていた緊張を少し和らげる。
返事を返して千秋は厨房奥に入り、山さんにまかないをよそって貰った。
今日のまかないはクリームシチューパスタ。なかなかに絶品だった。
急いで食べて屋上に行く。
重いドアを開けると冷たい風が吹きつけた。
「さっみぃ・・・」
言いつつ、ファー付きのダウンジャケットの首元を引き寄せる。闇の中に白いジャケットがよく映える。
ジャケットのポケットからタバコとライターを取り出そうとしてハッと思い直し、別のポケットをまさぐってガムを取り出し口に放り込む。
(制服着たままヤニ臭かったらマズイよな。やっぱし)
思いつつ、ミントガムを噛む。
壁を背にしゃがみ込み、ぼんやりと空を見上げる。
いつもよりも少し夜が明るいような気がするのは派手なネオンと装飾のせいだろうと思った。
しばらく夜空を見るともなしに眺めていたが、口からガムを取り出し紙に包むとふいに思いがよぎった。
「そうだ。あいつ茶化してストレス発散しよっと」
そもそも俺が働かなきゃならなくなったのはヤツのせいでもあるんだし、俺にはそんくらいの権利あるよな。
うんうん。と一人胸中で呟くとジャケットの内ポケットから携帯を取り出した。
パカッと軽い音を立てて携帯を開くと、新着メールと着信、伝言メモが山のように入っていた。
(・・・何だかものすごくヤな予感がする)
思いつつ、携帯チェックをしてゆく。
伝言メモを聞く。
『あ、繋がったよ~、千秋君? 私ミカだよ~。今日空いてたら付き合ってください。連絡待ってます』
伝言メモ全てがだいたいこんな感じだ。
続いてメール。
『千秋君? 初めてメールしますね。TEL繋がらなかったのでこっちにしました。後で連絡下さい。待ってます(はあと) リカより』
・・・似たような内容だった。
着信はもちろん知らない番号だらけ。
うんざりしながらメールのチェックを進めて行くと、やっと見知った名前が出てきた。
(もしかして・・・)
開いてみると
『千秋すまん! ルカちゃんに頼まれてお前のケータイ教えちまった。・・・ついでにメアドも? すまん! 合コンの誘いに負けた。許せ』
(ほーぅ。俺が汗水たらして働いてんのに合コンだぁ?)
携帯片手にふるふると肩をふるわせぼそりと呟く。
「矢崎・・・次会ったらシメル」
そうこうしているとまたしても新着メールが。
チラと見るが、同じ様な文面だった。
一体何人に回ったのやら。番号とアドレス替えないとなー。いっそケータイ自体換えるか・・・
くっそーーっ。何が、なにが・・・
「メリークリスマスだ、このヤロー」
千秋の悲痛な叫びが、日付も変わろうとする聖なる夜に飲み込まれて消えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
えっと・・・
クリスマス企画・・・だけど・・・
俺ってやっぱりこういう運命なのか?
なんか、ものすごく可哀想な気がする。
せっかくのイブにこんな目に・・・
頑張れ、俺。
みんな、楽しいイブを過ごしてくれな。