以前は、生徒から質問を受けるたびに、iPadで解説動画を作成し、
答えに至るまでの過程を丁寧に説明していました。
「わからないところを、わかりやすく説明すること」が、自分の役割だと考えていたからです。
しかし、コロナ以降の動画文化のなかで、次第に一つの問題を強く感じるようになりました。
丁寧に説明しても、生徒自身が十分に考えていなければ、その内容は驚くほど早く忘れられてしまうのです。
動画を見た直後には、「わかった」「理解できた」と感じます。
けれども、少し時間が経ってから同じような問題に出会うと、手が動かない。
解説を見ればわかるのに、自分では解けない。
これは、説明を理解したことと、自分で考えて解けるようになったことが、同じではないからです。
私は、YouTubeに数多く投稿されている中学受験問題の予習シリーズの解説動画や、某コ〇ツバのようなサービスに対して、
批判的な立場を取っています。
もちろん、仕事を奪われるといった個人的な理由からではありません。
私が懸念しているのは、答えまでの道筋をすべて見せることで、生徒から「自分で考える時間」を奪ってしまうことです。
やっと晴れて嬉しいパピヨンくん
最初から最後まで詳しく説明すれば、生徒の満足度は高くなります。
保護者の方から見ても、「これだけ丁寧に教えてくれるなら安心だ」と感じやすいでしょう。
しかし、学力を伸ばすという点では、必ずしもそれが最善ではありません。
自分で悩み、試し、行き詰まり、もう一度考える。
この過程を経験して初めて、解法が単なる知識ではなく、自分の力として定着していきます。
どれほど授業がわかりやすくても、生徒が受け身のままであれば、本当の意味での学力にはつながりません。
反対に、すぐに答えがわからなくても、自分の頭で粘り強く考えた経験は、次の問題に向き合う力になります。
そこで私は、すべてを説明する「解説動画」ではなく、最近は考える方向を示す「ヒント動画」を作ることにしました。
たとえば、次のように問いかけます。
「この問題を見たとき、まず何を考える?」
「この解法で進めると、ここで行き詰まりますね。」
「では、別の考え方ではどうでしょうか。こちらの方向なら、少し先へ進めそうだね。」
「この方針で、もう一度自分で考えてみてください。」
「テキストの解説を読み、ぼくが説明した意味が理解できるまで考えてみましょう。つぎの授業で聞くからね!」
地道に、地道に。
あえて、答えまでは説明しません。
生徒にとっては、少し不親切に感じるかもしれませんね。動画を見ただけで、すぐに問題が解決するわけでもありませんから。
そのため、正直に言えば、生徒の満足度は高くありません。
しかし、私はそれでよいと考えています。
学習において大切なのは、その場で満足することではなく、次に同じような問題が出たとき、自分の力で考えられるようになることだからです。
もちろん、短時間で答えがわかることや、効率よく学習できるように見えることは、「商品」として魅力があります。
タイムパフォーマンスやコストパフォーマンスを重視される保護者の方にとっては、答えまですべて説明する動画のほうが、価値があるように見えるかもしれません。
しかし、本当に大切なのは、「何分で答えを知ったか」ではありません。
その問題を通して、どれだけ自分の頭を使ったかです。
中学受験では、習った問題とまったく同じ問題だけが出るわけではありません。
初めて見る問題に対して、自分の持っている知識をどう使うか。行き詰まったときに、どのように考え方を切り替えるか。
その力は、答えを聞いているだけでは身につきません。
考える時間を与えることは、すぐに答えへたどり着くための近道を示すことではありません。
むしろ、生徒自身に「地図」を持たせ、迷いながらも自分の力で道を探させることです。
時間はかかります。
しかし、その途中で身につけた判断力や粘り強さは、次に未知の問題と出会ったときの確かな力になります。
その歩みこそが、最終的に生徒を自立させ、学力を伸ばす道だと考えています。
でも、暑いよー



