いつだってそうだった。
アイツは出会った頃からずっと、ただひたすらに前に向かって早足で歩き続けてた。
いくら私が必死に追いかけても、追いつく事が出来ずにアイツの背中ばっかり見てた。
私にはアイツの隣を歩く事が出来なかった。その事が悔しくて、悲しくて。昔はしょっちゅう泣いてた。
その度に立ち止まって、アイツとの距離は一向に縮まるどころかどんどん離されていって・・・・。
そのくせ、私が泣くのを止めて必死に後を追っていくと、アイツは少し不機嫌そうな顔をしながらも待ってくれてた。
そしてまた、私より少し前を早足で歩き出していく。
それが私とアイツの距離だった。
隣じゃなくて、少し離れた後ろからアイツの背中だけを見てた。
学校の成績は抜群なくせして、誰でも出来るような事が苦手で。
その事を指摘されるとすぐに不機嫌になって『うるせーんだよ』って言ってすぐに逃げ出すのがお決まりのパターンだった。
興味のある事はトコトンまでのめり込んで最後にはキッチリ物にする。誰かに教えてもらう事が嫌いで何が何でも自分ひとりの力で成し遂げるのがアイツのポリシーみたいなものだった。
他人に口を挟まれると途端にやる気を無くすが、数時間後にはまた一人で再開するのもお約束だった。
かといって自分の殻に閉じこもってるわけでは無かった。少なくとも気心知れた仲の友達は何人もいたし、無闇にアイツの奥にまで踏み込まなければ何かを言ってくる事はなかった。
傍に居るだけなら、アイツは他人を決して邪険に扱ったりなんかしなかった。
そんな性格してるくせに、自分以外の誰かの奥には図々しいくらいに土足で上がりこんでくる。
しかもそれは決まって相手が他人を拒絶しているような時。悲しい事があった時だったり、ひどく落ち込んでいる時に限ってアイツは我がもの顔で踏み込んできた。
いくら拒絶したって出て行こうとしない。その場に座り込んでテコでも動かなかった。
コッチが諦めると、まるで見計らったように『話せば少しは楽になるぞ』なんてセリフを恥ずかしげもなく真顔で言ってくるのだ。
そんな・・・本当に笑っちゃうくらいに不器用な生き方しか出来ないヤツだった。
アイツの好みは酷く単純で、一度気に入ってしまえばそればっかりといった具合だった。
食べ物にしても音楽にしても、何にでもだ。
とりわけお気に入りだったのがジンジャーエール。
年がら年中。たとえ季節が真冬だったとしてもいつもジンジャーエールを飲んでいた。
アイツとの思い出の中ではいつだってソレが出てくる。
まさに切っても切れない存在。アイツとジンジャーエールはセットで一つみたいな物だった。
なんでそこまで好きなのか。何か思い入れでもあるのかと尋ねるといつでも『好きなんだからしょーがねぇだろ』というお決まりの答えが返ってきた。
何もかもが懐かしい思い出。
いつだって私の少し前を早足で駆けていってアイツとのかけがえの無い大切な思い出。
「なにも、ここまで早足に駆け急ぐ必要もなかったのに。ばーか」
私は手に持つジンジャーエールをアイツの墓の前にそっと置いて、7年も心に留めていた思いを吐き出す。
「私ね。アンタの事ずっと憧れてたんだよ。結局、最後までアンタの隣に並ぶ事は出来なくなっちゃったね。・・・・色んな思いを宙ぶらりんにさせたまま、もう7年もたっちゃった」
墓石に額を当てると、ほんの少しひんやりした感触がした。
「本当に・・・・大好きだったんだぞ」
お供え物とは別に買っておいた缶のプルタブを開けると、プシュッと心地良い音が辺りに響く。
中身を少しアイツの墓にかけてやると、小さな気泡が光に反射してキラキラと輝いた。
ソレがまるで『やっぱり旨いな』とでもアイツが言っているように思えて、ほんの少しだけ笑った。
「また来年も来てあげるから、感謝するんだぞ」
最後に少し残ったジンジャーエールを飲み干す。
あの頃と変わらない、懐かしい味がした。
(言い訳)
PCに音楽データ入れていて、なんとなく「くるり」のアルバムだけ再生させてたら思いついたSSです(汗)
意味が分からない人は「くるり」の『ばらの花』という曲の歌詞を調べてみましょうw
ジンジャーエール買って飲んだこんな味だったけな♪