電波によって届けられるはっきりと聞こえる声は危険であるが、そこには信じるか信じないかという分水嶺がある。その声を信じてしまえば、洗脳に簡単に嵌まってしまうが、その声を信じなければ、洗脳には極めて落ちにくくなる。それだけでなく、この電波操作という技術が露見する可能性が高くなる。
スパイはそのような状況になるのを避けるために、事前に対象者の心証をしっかりとリサーチしている。それだけであれば、内なる声のような声と思考過程のハッキングだけで十分に読み取れる。
その結果として、対象者にははっきりと聞こえる声は使えないとなっても、内なる声のように聞こえる声だけで洗脳することは出来る。それは内なる声と変わらないため、洗脳されていると露見しにくいが、一方で、はっきりと聞こえる声よりは洗脳の効果が低い。
例えば、目の前にいる人に誰かを殺せと言われても、ほとんどの人は従わないだろう。特別なケースはあるかも知れないが、ほぼそのような言説は無視される。内なる声も同様であり、その主張が馬鹿馬鹿しければ、その考え方は採用されない。
ただし、内なる声だけでも十分に妄想は作り上げられる。それと同時に、電波操作では感情も制御できる。電波で声を届けると同時に怒りや悲しみや、その他諸々の感情を操作すると妄想が作り上げられるだけでなく、それを信じてしまう可能性が十分にある。例えば、テレビで流れるニュースを見せながら、対象者を怒らせられる。そのような工作をずっと続けると、対象者がある一定の思想性を帯びるだけでなく、そのうち何とかしなければと思うようになる。このような工作であれば、電波操作は完全に秘匿されたままに実行できる。
あるいは、スパイは対象者に特定のターゲットを植え付けるかも知れない。内なる声のような声を使って、特定のウェブサイトを閲覧させることもできる。それと同時に、電波操作で妄想と憎しみを増幅させれば、そのうち同様の考え方に染まるかも知れない。それらはストレートな洗脳ではなく、実際に対象者を落とすまでに時間はかかるかも知れないが、洗脳に成功する可能性は十分にある。
内なる声による洗脳の場合、はっきりとした声よりも時間がかかる。一方で、声が聞こえていることに気付かない可能性もあるため、工作を受けていることがより露見しにくい。つまり、これも十分に危険な工作手段になる。