脳内だけに声が聞こえる場合には様々な原因が考えられる。ただし、ここでは神や超自然を選択肢から省きたい。それは神が存在するか存在しないかという問題ではない。多くの宗教において神は不可知であり、一般的に神の存在には近づけない。実際のところ、神がこのような殺人事件を求めるはずもないので、この犯人が主張するように悪魔がささやいたのかも知れない。

 

ただ、悪魔という概念にしても、脳内に声が聞こえて犯罪を実行するように勧めるならば、それがどんな要因によって生み出されていても悪魔と認識されてしまう。そのため、悪魔という議論にもそれほどの深みはない。ここではその他の全ての超自然的なものは省いて理由を考えたい。

 

 脳内に声が聞こえるという主張には四つの可能性が考えられる。一般的には、精神疾患による幻聴かドラッグによる影響と考えるだろう。確かに、殺人事件を促すという部分を除けば、幻聴という現象はそういう症状によって引き起こされる可能性が高いと思う。

 

一方で、殺人事件を促すという部分だけを取り出すと、電波操作の可能性は十分にある。電波操作で声を聞かせるというのはそもそも洗脳のためであり、洗脳後に殺人事件を起こさせるというのは選択肢の一つとして十分に考えられる。それは電波を利用しない洗脳にも十分当てはまる。

 

 そして、もう一つの選択肢が嘘である。ただ、この事件においては嘘というのは考えにくい。この声自体が犯罪を引き起こした要因として認定されており、それ以外に、この犯人がこの殺人事件を実行する理由はない。それに加えて、この犯人は捕まった当初から声の話をしており、警察もその事実を認めている。つまり、最初から最後まで首尾一貫して、この悪魔の声こそが問題であり、彼はその声に従って殺人事件を引き起こした。

 

 また、彼の体からはドラッグも検出されなかった。それはもう一つの選択肢であるドラッグの可能性もないということである。

 

 残りの答えは精神疾患による幻聴か電波操作のいずれかである。この違いを判断するのはとても難しい。ここで採り上げてきたように、外からの声だと認識している犯人もいる。一方で、ほとんどのケースにおいて電波によって声が聞こえていると考えることはなく、ほとんどの場合において電波で声が聞こえても、電波によるものだと認識されない。

 

 それは電波操作の存在が一般的に認められていないからでもある。超長波の電波によって人間の脳や体が影響を受けることは事実であるが、それを政府が依然と隠しているために、このような問題が起こっている。つまり、政府がこの技術を認めて対策を講じれば、このような問題はかなり低減されるはずである。

 

 このケースにおいて、犯人は電波による声を聞いていたはずである。彼は数週間に亘って、この声を聞いていた。この点は電波操作を判断する上では重要である。もし、これが精神疾患による幻聴であれば、このような短期間で他人を殺害するほどに悪化したりはしない。

 

 一方で、電波操作であれば、対象者を洗脳するのに少なくともそれくらいの時間が必要になる。特に、それが軽犯罪ではなく、殺人のような重罪であれば、簡単には洗脳できない。たとえ外部から対象者の脳に直接的にアクセスできたとしても、数日では倫理観を変えることは出来ない。つまり、本人が殺人は悪い行為だと思っている場合、その認識を変えさせて、実際の行動に至るまでには時間が掛かる。

 

 それには最低でも数ヶ月の時間が必要になる。このグアムのケースの場合、2か月も掛かっていないようであり、電波操作の中でも短い部類に入るかもしれない。それでも、この結果が病気によるものよりは電波である可能性の方が高い。そして、これが電波操作だと思っているのには他にも理由はある。それはこの事件が僕自身の事案に関連しているからである。