最低賃金を上げると、結果として平均賃金が上がるでしょう。それは最低が上がったから上がると言うよりは、全体的に賃金が上がると思います。経営者が人を雇おうと思ったときに、その仕事の実勢の賃金を意識し、その実勢の賃金は仕事間である程度はバランスが取れていると思われます。最低賃金を引き上げると、その瞬間はこのバランスは壊れるでしょう。需給とは関係なく賃金が変化するので、それに応じてすぐに変化するものと、時間が掛るものがあるでしょう。パートタイムや期間工の賃金にはすぐに影響がでるだろうけど、正社員の給料が変化するには、少し時間が掛るかもしれないですね。

 でも、それも時間の問題で、労働組合は最低賃金を参照点として、賃上げ交渉をするでしょう。その結果として次に起こるのは、製品の値段の上昇です。当たり前と言えば当たり前ですが、労働コストが上がった分を、利益の減少と他のコストの低下で賄えないならば、物の値段は上がります。

 ただ、ものの値段の上昇はそんなに単純なものではないです。全てのコストが同時に上がればいいのですが、企業間には競争力の差があるので、ある会社は労働コストの吸収が出来て値段を維持すると言うことになると、労働コストの吸収の出来ないコンペティターは潰れるでしょう。そうなると、ある意味、独占的な企業がたくさん出るかもしれないですね。ちなみに、そうなると値段は上がると思います。理論的には、独占企業が利益を最大化できる価格で値段は決定されることになります。最低賃金を上げるとこの可能性は否定できません。

 独占や寡占が生み出されるよりも可能性が高いのは、みんなで値段を上げて、労働コストを吸収することです。かなり日本的な解決法ですが。それは日本の戦後の中に見出せると思っています。

 55年体制というのは本来的に二つの要因によってそう呼ばれていました。一つは、保守合同が起こり、自由民主党が出来たからです。もちろん、作ったのは鳩山さんで、今の首相の祖父です。もう一つの要因は、1955年から賃上げの方式として、春闘でほぼ一括に値段を上げる方法が定式化されました。つまり、労働組合が体制の中に内部化されるわけですね。

 当時はまだ外貨割当制が残っていて、どこが海外から機械や原料を輸入するかという権限を通産省が握っていた時代です。安定した保守政権と、内部化された労働組合と、まだ決定権を持っていた官僚がその当時の日本を引っ張っていたわけですね。

 これとみんなが値段を上げることにどういう関係があるのかというと、1974年の賃金政策に答えがあります。1973年は第一次オイルショックの年で、物価がどんどん高騰していきます。ところが1974年に日本だけ物価の上昇を止めることが出来ます。何をしたかというと、春闘での賃上げをしなかったのです。

 それが可能だったのは、安定した政権と体制内部化された労働組合と優秀な官僚組織があったからでしょう。今はその三つどれもないかもしれないですが、ただ仕組みとしては、当時と大きく変わっているわけではありません。要するに春闘で一斉に賃上げすると、賃金が上がることになるし、結果として物価の上昇をもたらすでしょう。過剰流動性をもたらすより、安定した物価の上昇が目指せると思います。

 この方法だと、おそらく円安になって、対外競争力は阻害されないでしょう。必ずしも円安になるとは言い切れませんが、もしならないのであれば、給料の上昇がダイレクトに個人の消費をかさ上げするでしょう。いずれにせよ、経済的に悪影響を受ける可能性は低いです。それよりもインフレ局面になると、お金を現金のままで持っているよりも、個人は消費を増やすか、より高い利回りの投資先を探すことになるので、プラスの効果が生み出されるでしょう。

 問題があるとしたら、財政でしょうね。なぜかというと、インフレになると確実に長期金利が上がるからです。新規国債を発行する際のコストが上がることを意味しています。つまり新規国債の発行量を減らす必要がありますね。今、日本の財政は毎年何十兆円も借り換えをしています。逆に言うと、この借り換えの量が減る財政のバランスにあれば、日本の財政は順回転していくと思われます。なぜなら一定の物価上昇下で税収も増えているからです。それによって、負債の残高は減っていくでしょう。

 今の民主党政権は今まで以上に労働組合の助けを受けられるんだから、これくらいの政策を導入してもいいんじゃないでしょうかね。