産経新聞 7月19日(日)10時30分配信
オフィスにタブレットの「iPad(アイパッド)」だけを置き、離れたところから自分の顔を画面に映し出して通話する。技術の発達に伴い「テレビ電話」ももはや見慣れた情景だ。
だが、そのiPadを装着し、あたかも意思を持った生き物のように移動するロボットが登場。意思疎通も楽々こなし、まるでアバター(分身)ともいえる注目のロボット。それが「テレプレゼンスロボット」である。
■操作は意のまま
その代表格「double Robot(ダブルロボット)」は米ダブルロボティクス社が開発。構造はいたって単純で、大人の背の高さくらいの棒(伸縮可能)の先端にiPadが鎮座。利用者側PCとネット接続すると、画面に利用者の顔を映し出しテレビ電話として使える。
最大の特徴がポール下部の電動車輪で、利用者が手元のPCの矢印マークを押すなどして遠隔操作できる。これによって前後左右への方向転換、速度などを自由自在に変えられ、意のままに操れるのだ。
■ロボットなのに自然な意思疎通
利点を一言でいえば、人らしいコミュニケーションを可能にしたことだろう。例えば、在宅勤務の部下がオフィスにあるダブルを自宅から遠隔操作。すいすいとフロアを進んで上司に接近。画面を通じ1対1であいさつも交わしながら、仕事の相談をなめらかに進める…。
テレビ会議だと、指定の時間・場所に集まる必要があるが、アバターなら意思疎通がより自然で、まるで同じフロアにいるような感覚だ。同社HPでは「革命的で新しい意思疎通を可能にした」とうたうが、あながち誇張といえないだろう。
千葉・幕張メッセで6月、アプリ開発などを手がける「ニューフォリア」(東京)がダブルのデモを公開。離れたところでPCに向かって笑顔を振りまく女性の姿をiPad画面に映し出しながら自走した。「まるで本物の人が近づいてくるかのよう」。そんな感想が人垣の中から漏れ聞こえた。
■ブラウザで操作OK
興味深いのは、ダブルの操作がウェブブラウザ(ファイアフォックスなど)からも可能なことだ。
NTTコミュニケーションズは新技術の「WebRTC」を無償で使えるプラットホーム「スカイウエイ」を提供。この仕組みを用いれば、専用アプリを使わず、ブラウザから操作できる。PCでもスマホでも端末を問わず、「普段見ているインターネットの画面」から扱えるのだ。
その親しみやすさから、「WebRTC技術が普及すればテレプレゼンスロボットの存在感はさらに加速する」(同社技術担当)と期待する。
■テレワークに不可欠
テレプレゼンスロボットの開発の主流は米国だ。在宅勤務など「テレワーク」が広まり、ロボットが必要とされてきたためだ。ダブルの存在は構想でも絵空事でもなく、すでにグーグル、SAP、ツイッターなど名だたるIT企業で稼働する。
日本に目を転じてもテレワークに熱い視線が注がれ始めている。介護など家庭の事情があってもテレワークが認められれば就業が維持できるし、雇用側も人材が確保できる。労働人口減少問題への切り札にもなり、政府はテレワークを強力に推進している。
ロボットの活用が、その流れを後押しすることは間違いないだろう。
■コスト低減、市場拡大
コストも下がってきた。「テレプレゼンスロボットもかつては1台1千万円もした」(関係者)が、現在のダブルは約2500ドルで、日本の販売代理店は約35万円で販売中だ。
米エニーボッツの「QB」のように9700ドルするタイプもあるが、2000ドルを切る機種もあり、価格のバリエーション含めさまざまな選択肢がそろってきた。
市場調査会社のシードプランニング(東京)によると、すでに10種類以上のテレプレゼンスロボットがあり、2020年の国内市場規模は50億円をはるかに上回る規模になると予測されている。
■大胆な「活用」
市場が拡大するのは、“分身ロボット”が多方面で活躍すると期待されるためだ。
前出のNTT担当者は「持病のある子供のアバターが幼稚園や学校の教室に行き、友だちと机を並べる海外の実例がある。身体の事情があって学校に行けない問題も解消するのでは」と話す。
同様に、自走できて自由に操作できるテレプレゼンスロボットなら、歩行できない障害者が買い物を楽しむことも、海外の美術館や立ち入り厳禁の史跡の見学も容易になりそうだ。
仕事、教育、バリアフリー…。テレプレゼンスロボットの大胆な活用が、さまざまな社会的課題を解決に導く。そんな未来が現実になりつつある。(柳原一哉)
