完全無料の漫画制作ソフト「Cloud Alpaca」の狙い | マルチニーズシステムのブログ

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ITmedia ニュース 1月16日(金)15時33分配信

 昨年末に登場した漫画制作ソフト「Cloud Alpaca」(クラウドアルパカ)は、ネットユーザーを驚かせた。数千円~数万円程度が一般的な漫画制作ソフトの相場だが、Cloud Alpacaは完全無料。漫画制作のツールだけでなく人物や背景、スクリーントーンなど素材まで無料なのは極めて異例だ。

 「だいぶお金を使った」――「Cloud Alpaca」を提供するベンチャー企業・MediBangの高島秀行社長は笑う。約1億円かけて開発しており、今後も素材の追加などアップデートを続けるが、基本的な機能は無料を貫く予定。春にはタブレット版も無料公開する計画だ。

 狙いは、漫画制作ソフト市場で圧倒的なシェアを獲得すること。日本中、世界中の漫画家にCloud Alpacaを使ってもらうことで同社プラットフォーム上に作家を集め、人気作を生み出して収益につなげていく計画だ。「漫画制作に革命を起こしたい」と高島社長は意気込む。

●漫画制作から販売まで完全無料

 Cloud Alpacaは、漫画制作の効率を高める狙いで開発したPC/Mac対応のソフトだ。ピージーエヌの無料ペイントソフト「Fire Alpaca」をベースに、吹き出しやスクリーントーン、人物・背景素材など漫画に必要な機能を追加。素材は日々追加しており、数十万、数百万という単位でそろえていくという。

 ソフト上で制作したデータはすべてクラウド上に保存され、複数人が同時に別の場所からデータを読み書きする「チーム制作」も可能だ。作成した漫画はEPUBで出力でき、同社が運営する電子書籍販売サイト「MediBang!」にアップロードして有料/無料で公開できるほか、MediBang!からKindleストアに簡単に配信・販売できる。

 ユーザーインタフェースは日本語だけではなく、英語や中国語、韓国語、スペイン語、フランス語などにも対応。昨年11月の公開以来、約4万5000回ダウンロードされており、うち3割が海外からだ。韓国(全体の10%)、米国(同)、中国(7%)からのダウンロードが多いという。

●「音楽のように、漫画制作を変えたい」

 「音楽のように、漫画制作を変えていきたい」――高島社長はこう話す。

 ネット時代以前、音楽を作って売るには、演奏したデモテープをレコード会社に持ち込み、デビューが決まればスタジオで録音してCDをプレスし、レコード店に置いてもらって売る……など膨大なプロセスが必要だったが、今はMac1台あれば作曲からアレンジ、演奏まで行え、そのままネットで配信・販売できる。

 漫画制作も同様に変えていきたいという。紙の原稿を紙で出版していた従来は、ネームを出版社に持ち込んでデビューにこぎ着け、アシスタントの力を借りながらキャラや背景を下描きし、ペン入れ、トーン貼り、仕上げをし、印刷して全国の書店に配本する――といったプロセスが必要で、手間が大きかった。

 Cloud Alpacaで漫画を制作し、無料素材をフルに使えば、背景描きやトーン貼りなどの手間が大幅に削減できる。チーム制作機能を活用すれば、作家とアシスタントが別々の場所にいても共同制作が可能。「最終的には、今までの10倍ぐらいのスピードで漫画が制作できるようにしたい」という。

 「漫画を誰でもどこでも描けるようにしたい」との思いもある。マンガの“設計図”に当たる「ネーム」をスマートフォンで描けるアプリ「マンガネーム」も無償公開(現在はAndroid版のみ、近くiOS版提供予定)。春にはCloud Alpacaのタブレット版を公開予定だ。

 「PCやタブレットを持っていない中高生でも、スマートフォンなら持っている。中高生が外でネームを描き、家に帰ってPCやタブレットで漫画を制作することも可能になる」と高島社長は期待する。

●「100%の漫画家が使うソフトに」――“完全無料”の狙い

 ソフトやクラウド機能の利用は無料。MediBang!やKindleストアで販売した収益は作家に100%還元しており、同社は手数料を取っていない。ソフト起動時に広告が表示されるが、その収益は、元のソフトを開発したピージーエヌに渡っており、MediBangの収益はまったくない状態だ。

 「こんなにお金かけて作ったものを無料で出せるのは、われわれしかいないだろう」――Cloud Alpacaにかけた制作費は約1億円。素材を含めて完全無料で提供するのは、業界の常識から外れている。

 無料を貫く狙いは、できるだけ多くの漫画家に使ってもらうこと。無料を武器にユーザーを集め、「うちのツールを使う漫画家の割合を100%に高めたい」という。

 Cloud Alpacaを使う作家が増えれば、同社の投稿サイト・MediBang!への投稿作品も増え、有望な作家や人気作が集まってくると期待。サイトのページビューが伸びれば、広告を掲載して収益をあげ、一部を作家に還元したいという。基本的な機能は無料を貫くが、クラウドの容量追加など付加的なサービスの有料化は検討している。

 また、MediBang!に集まった有望な作家に金銭的な支援を行ったり、編集者を付けるなどしてさらなる成長を促し、人気作を生み出して書籍やドラマ、映画などに展開したり、翻訳して世界中に配信するなどし、手数料などから収益をあげる考えもある。「YouTubeもプラットフォームを無料で提供し、ユーザーを集めた上で収益をあげた。漫画は日本がナンバーワン。日本の“メディア王”になるには漫画を押さえないと」

 このほど、ベンチャーキャピタルなどから総額2億4000万円の資金調達を実施。今後もソフト開発や素材制作に投資を惜しまない。

●社長はGMOクリック証券創業者 なぜ漫画事業に

 同社は昨年1月に創業したばかりのベンチャー企業。大金を投じ、思い切った勝負に出られる背景には、高島社長のキャリアがある。

 高島社長は、証券会社の営業、システム開発会社のエンジニア、アクセンチュアのコンサルタント、旧ライブドアを経てGMOクリック証券を1人で起業。業界で有数のネット証券に育て、2014年まで社長を務めた。MediBangは14年1月に私費で創業。現在はMediBangの社長とGMOクリック証券の会長を兼任している。

 証券・コンサル・システム畑を歩んできた高島社長が、なぜ今、漫画なのか。「もうかりそうだから」と笑いつつ、こう解説する。「これまでにも、誰も作らないようなシステムを作り、サービスで勝負してきた。MediBangでも基本的なやり方は同じだ」

 例えばGMOクリック証券は、全システムを自社で内製した。「証券会社はシステムをあまり自社開発しないが、すべて自社で開発した。エンジニアを集めてほかにないようなシステムを作り、それでビジネスしてきた」

 漫画を描いたことはないが、読むのは以前から好きだった。蔵書を電子化してタブレットで読んでみたところ、電子書籍の便利さを実感し、「電子書籍販売は急激に伸びる」と予見。漫画制作ソフトから投稿サイト、電子書籍配信まで一括で手がけるサービスを構築した。

 その野望は漫画制作にとどまらない。「漫画関連サービスにめどがつけばアニメ制作にも参入したい」と、高島社長は意気込んでいる。