産経新聞 11月7日(金)11時0分配信
中国のデジタル機器メーカー「小米(シャオミ)科技」の破壊力がすごみを増している。韓国サムスンや米アップル製品とさほど変わらない性能ながら、価格は最大約5分の1という激安スマートフォンを販売し、倍々ゲームで急成長。ソニーを最終赤字(今期見通し)へと転落させ、スマホ世界首位の韓国・サムスン電子を大幅減益に追い込んだ。創業4年目ながら、アップルも“敵視”し始めた。だが、競合する各メーカーが本当に気にしているのは今後の動向。シャオミが欧米や日本など先進国市場にいつ本格的に進出してくるのか、戦々恐々としている。
■“秒殺”1秒で1万台販売
「4.2秒で用意した4万台を完売したよ」-。9月、元グーグル幹部で昨年シャオミに移籍したヒューゴ・バラ氏がツイッターでそうつぶやき、新たに参入したばかりのインド市場でのスマホ販売の好調ぶりをアピールした。ネット通販での限定販売で消費者の“飢餓感”をあおるという中国で成功した手法をそのまま持ち込み、狙い通り、インドでの限定販売は毎回、驚異的な売れ行きをみせている。10月に入り、同じく4秒で10万台を販売したという報道もあり、まさに“秒殺”だ。
米調査会社によるとシャオミのスマホ出荷台数は4~6月期に約1500万台と、前年同期の3倍以上に拡大。主戦場の中国ではサムスン電子を抜きシェア1位に、世界シェアもレノボに次ぐ5位に浮上した。その後も成長の勢いは止まらず、7~9月期には1700万台超を販売し、ついに世界シェアでサムスン、アップルに次ぐ3位に浮上。14年通年の販売台数は当初目標の4000万台から6000万台程度に上振れする見込みで、創業4年目で売上高が1兆円に達するとみられている。
その成長スピードの圧倒的な破壊力は、世界の同業メーカーを震撼(しんかん)させている。「中国メーカーの躍進で厳しい競争となった」。2015年3月期の業績予想を大幅赤字へと下方修正したソニーの平井一夫社長は、シャオミの予想を超えた急成長を、その一因に挙げ、中国向けスマホの開発を中止した。
ソニーだけではない。中国市場で今年3月期末からわずか3カ月の間にスマホシェアを6ポイントも落としたサムスン電子は、7~9月期の営業利益が前年同期比で6割減に落ち込み、今後も低迷が続くとみられている。8月には韓国3位の携帯電話メーカー、パンテックは勝負をあきらめ経営破綻。身売り先にはシャオミの名も挙がる。
アップルだけは今のところシャオミの破壊力の影響をあまり受けていない。だが、アップルのチーフデザイナーは今月、シャオミの端末がアップルのデザインに似ていることをインタビューで聞かれると、シャオミを名指しすることは避けつつも「窃盗だ」と牽制(けんせい)、警戒感を示した。
■部品メーカーも大混乱
限定販売やキャラクターを使った販促策なども独特だが、シャオミの競争力の源泉は、なんといってもその価格。インド市場で販売する「Redmi」は高性能ながら約1万円と、他社の同等機種に比べ大幅に安い。ハイエンド機種も2万~3万円とアップルやサムスン電子などの半額以下だ。それでいて、部品は他メーカーと同じものを使用している。
販売急増にともない、部品の調達でも優位に立ち始めたシャオミの存在は、供給する部品業界にも混乱をもたらしている。
台湾の液晶タッチパネル大手・勝華科技(ウィンテック)は、今年、パネルの規格変更で受注が減ったアップルからシャオミに乗り換えた。同社の黄顕雄・董事長は5月、台湾紙・自由時報のインタビューで「シャオミ製品の利益はアップル製品の1.5倍のため増益が期待できる」と語っていたが、5カ月後の10月に会社更生法を申請した。シャオミからの受注増も、他の部品メーカーとの価格競争に巻き込まれ、利益が出せなかったとみられる。
スマホ用の液晶ディスプレーを手掛ける日本のジャパンディスプレイも今期の黒字予想から一転、大幅赤字となる。アップルへの依存度が高く、販売スケジュールが遅れたのがその主因だが、シャオミの台頭により部品の価格競争が激化したことに苦しんだことは間違いない。また、スマホ販売が低迷するサムスン電子などへの供給が細ったことも、間接的だがシャオミの影響だ。スマホ向けにリチウムイオン電池を供給する日立マクセルが今月、社員5%の早期退職というリストラ策を発表したのも、同じ構図だ。
シャオミは今年から中国以外の新興国に市場を拡大。インドを含め、ブラジル、ロシアなど年内に10カ国での販売を計画。2015年には、14年の2倍近い1億台超を世界で販売するという。実現すれば、サムスン電子、アップルに肉薄。その市場破壊力は計り知れない。
■日本への進出は考えず?
気になるのは日本を含む先進国への進出だ。シャオミのナンバー2、林斌・総裁は、10月、日本経済新聞のインタビューで「通信会社が強く、販売奨励金を出す市場ではアップルの『iPhone』との価格差が小さくなる。(日本進出は)まだ考えていない」と指摘。0円端末が一般的な市場では、現時点では勝負に出ない考えだ。
だが、日本でも通信会社を簡単に乗り換えられる端末のSIMロック解除が来年5月にも義務づけられる。そうなれば通信料で肩代わりする0円端末が減り、シャオミの格安スマホが市場に出回るという可能性もある。
もうひとつの焦点は、このままのペースの成長が続くかどうかだ。シャオミは、アンドロイドベースながら独自にカスタマイズした「MIUI」というプラットホームを利用し、アプリやゲーム、通販などで利益を出すビジネスモデル。だから端末は「原価に近い」(電機メーカー関係者)価格で販売できる。しかし、そのモデルが中国以外で通用するかは未知数。今夏には中国政府に個人情報を送信しているのではないか、との懸念も浮上した。
また、シャオミのビジネスモデルも、またすぐにまねされる運命にある。中国メーカーの中では現時点で最大手のレノボや華為技術(ファーウェイ)も、格安スマホを市場投入して対抗。インドで急成長するマイクロマックスなど、中国以外の新興メーカーも続々出てきそうだ。
激しい競争は、価格下落とサービス向上につながるため、消費者の立場としては歓迎すべきことだろう。ただ、残念なのは、そのレースに日本メーカーはついていけそうにないということか。