佐世保事件の被疑者父が自殺したことを受けて、報道とネットのあり方について思ったこと | 向原総合法律事務所/福岡の家電弁護士のブログ

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佐世保事件。

被疑者被告人を「叩く」というスタイルの報道やネットの姿勢が定着して久しいけれど(しかもネットでは断片的な情報の集約によって情報の特定が可能=モザイクアプローチ)、それって、被害者のためになるのか?
また、「叩く」作業をしてきた人たちが訴える一般予防の観点からみても、今後の監督者をどうするのか、その財源をどうするのかといった問題が残るんですが・・・

まず、話を被害者救済に絞りますが
「叩く」ことによって被害者救済がかえって妨げられるというのはよくあることです。
たとえば、記憶に新しい「焼肉酒家えびす」の事件。
会社ごとつぶしましたが、その後、被害弁償はどうなったのでしょうか。マスコミはあれだけ「叩く」ことをしておいて、その後は忘れた頃に報道するのでしょうが、しません。
ちなみに、無資力の相手方から賠償金を回収する法律なんか、日本にはありません。
ところで、本件では、亡くなられたお父さんの資産が相続人に移転しますが、すべてが被疑者被告人に移転するわけではない。その移転する額が、もし賠償額にみたない場合、どうするのか・・・
今回の件で、被害者の経済的救済が、複雑化したことは、間違いないと思います。

つぎに、一般予防の観点から。

「叩く」こと、実名報道して晒しあげることにより、一般予防が実現されると思ってる人はたくさんいます。

しかし、それを恐れて、未然の段階で二の足を踏む(必要な報告をしない、隠す)といった行動につながり、悲劇が起きる、ということもあります。
今回の件の真相はわかりませんが、金属バットで殴られた事件というのが以前あって、これを家族が問題にしなかったことが大きく問題視されています。
しかし、こういう家庭内の問題を事件化することを好ましく思わないことは、決して不合理な話ではありません。
  弁護士やってるとよく見かけます。法的措置が直ちに必要な場面だからそう言ってるのに、体の病気みたいに問題が顕在化していない(しかも複雑)ものだか ら、「大げさにしたくない」という思い込みで、対策を怠る、ということは、よくあります。それで、アドバイス通り、放置によって重大な結果が生じることも あります。
それで重大な結果が生じれば、それに対する非難(道義的・法的かはともかく)がなされることは当然だと思いますが、その前の段階=インシデント=を見抜く のは、技術的な問題ならともかく、心理的な面では、けっこうハードルが高いだろうというのが、そうした事案をたくさんみている自分の実感です。
翻って、技術的な問題にたとえるならば、飛行機で、エンジンがどうも出力が出ない、でも定時運行をしなくてはならないので点検不十分かつ欠航の決断ができ ずに無理やり飛ばして事故、という感じなんですが、このような技術的な問題なら、インシデントはわかりやすいところに存在しますが・・・

今回の件、お父さんが死を選ばれた理由はわかりません。
しかし、あの「叩き」について「そんなの当然だろう」という発想が支配する限り、同じような悲劇は繰り返されるのでしょう。
私はこういう「叩き」的センセーショナルな報道を見るたびに
・宮崎勤事件のご家族の問題
・耐震偽装事件の建築士のご家族の問題
を思い出しますが、いずれも「家族が止められただろう」というのは、傍目にはそう思うかもしれませんが、実際に、心理的な問題は、そう簡単ではない、と思っています。
だから放置していいとはまったく思いませんが、問題は、「社会でみんなでそれをどうにか考えようと協働する風潮」が一切なく、排除する風潮しかないことだと思います。

叩くことが許されるのは、命を奪われ、取り返せないほど辛い思いをした被害当事者・遺族だけだと私は思っています。そういう事件のいわゆる加害者側もしてきて、その悲しみをいつも辛い思いで見ています。

第三者が「叩く」ことで社会が良くなるというのは、絶対にないですよ。ただのメシウマネタになるだけ。それは被害者のためにもならない。
メシウマとか言ってる連中は、被害者だって晒しているわけですから。

  そういう、「叩く」ことの問題というか弊害面を、もっと意識しないと、報道も変わらない。報道は「視聴者が求める」と考えるものを収集提供します。つま り、「叩く」報道がされているとき、マスコミは「視聴者はそういうものを求めている」と考えているはずです。そのように見られているのです。

次は誰がターゲットになるかわかりませんよ。
いきなり喧嘩に巻き込まれて一方的に悪者にされて逮捕されるとか、痴漢冤罪で逮捕されて晒し者にされる、というのは、誰にでもありうることだと思いますので。