入江くん、琴子ちゃん、結婚記念日おめでとうございますドキドキ

琴子が毎年騒ぐ結婚記念日は、俺たちがおふくろに強制的に結婚式を挙げさせられた日だ。


琴子が本当の入江琴子になったのは入籍日なのだが、俺がサプライズをしたが為に記憶が曖昧らしい。


本当は二人きりで祝いたかったが、その時に琴子が単位を3つも落とした・・・いや、思い出すのは止めよう。


その頃のイライラを思い出して一体何になるのか。少なくとも祝う気持ちも、結婚のありがたみも半減してしまう。


俺は軽く息を吐くとパソコンの前から立ち上がり、デスクマットの下に隠している琴美の写真を取り出して見つめる。


ここに隠しているのは医局の人間は全員知っているが、勝手に取り出して見る奴は居ない。


「琴美ちゃん、大きくなった?」


・・・覗く奴は居るが。


「そりゃまだ赤ちゃんなので、日に日に大きくなりますよ。そっちは俺の娘の心配をしてる場合じゃないと思いますけど」と西垣先生を横目で睨みながら言うと西垣先生は「別に心配はしてないさ~」と言いながら俺から離れた。


俺は「今日は結婚記念日なので帰ります」と言いながら、写真をまたデスクのマットの下に戻した。


「へぇ~、入江でも祝うのか。あれ? あの事件があったからだっけ!?」と余計な事を思い出させる。


周りの先生やら事務も西垣先生に注目する中、俺は無言で医局を後にしたくなった・・・が、社会人なので「お先に失礼します」と挨拶はして出る。


西垣先生が「おいおい、入江~」と追いかけてくるが「西垣先生、頼まれていたあの処方のオーダーは出しましたか!?」と聞いたら、クルッと反対を向いて医局に戻って行った。


あれだけ周りから言われているのに、忘れるとは呆れる。


が、それを言うなら琴子もだから、人間としては忘却の機能は必要なのかもしれない。


だからと言ってと余計な思考になりそうなところを、琴子が現実に引き戻した。


「入江く~ん。一緒に上がれるなんて久しぶりだねラブラブ」と嬉しそうに言うが、お前が時短勤務しているのだから仕方がない。


時短と言っても忙しい時は琴美はおふくろに頼んで琴子は普通に勤務する事もあって、今日みたいは日はちょくちょくある。


いや、ないか。琴子が忙しい時は俺はその倍は忙しい。


「まあ、今日は特別だから」と俺が言うと、琴子は「分かってるよ、みーちゃんが楽しみに待ってるもんね」と笑いながら言う。


昔は夜景の見えるレストランだの、指輪だの、バラの花束だのと騒いでいた奴が、子供が出来るとこうも変わるのか。


まあ、それは俺もだけど・・・。


「ああ、まあな。夜更かしさせる訳にもいかないからな」と俺が言うと、琴子は「やっぱり入江くんはお医者さんだね」と変な納得の仕方をした。


夢を叶えようが、子供が出来ようが、仕事は仕事。家庭は家庭だろう。


というか琴子と結婚しただけなら、普通に手術や当直は入れている。


子供が出来て父親になってから、家族を大切にする様になった。まあ、緊急の仕事は当たり前ながら断りはしない。


琴子が答えない俺の顔を見ながら「うふふ」と笑う。


「なんだよ」と俺が返事をすると「子供が待つ家に帰るって、なんか幸せだね」と言われ、素直に「そーだな」と返事をした。


当たり前だけど当たり前じゃない、奇跡。


あの時結婚しなければ、こうなってなかったかもしれない。


お互い、相手が違ったかもしれない・・・いや、ないな。


何度でも思う。こうして結婚して、子供を持つと尚更に。


俺の相手は琴子だけなんだと。きっと琴子もそうだろうと思いながら「なあ」と問いかけると、琴子は「入江くんの考えてる事分かるよ」と言ってくれた。


「なんて思った?」
「時間が無いからさっさと帰るぞ」


お前・・・俺をなんだと―――
思わず「はぁ・・・」とため息が漏れる。


「どーせ当たりじゃない。そ、それとも・・・琴子、好きだとか!?」と今更な乙女思考を爆発させる。


当たりで、当たりじゃない。それをひっくるめて『好き』なのだろう。


「祝いをしてくれる人たちが待ってるだろ」と少しだけ急ぎ足にしておく。


「分かってるけど・・・ねえ、ちょっと言ってみない!?」と仕掛けてくる。


勿論言ってるやるよ、夜に琴美が寝た後に・・・その体中に。


電車に乗り込み、琴子を腕の中に閉じ込めながら「それは後では」と言って琴子を照れさせた。

 

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予約投稿です。多分、まだチャット中でしょう。

良かったら遊びにいらしてくださいな。

小話プレゼントしますよ(そんな設定がいつのまにか忘れられてる 笑)