琴子の後に風呂に入ってすぐに部屋に戻るつもりだったが、リビングの方から「おっさんくさいなぁ」と裕樹が大声で叫んでいるのを聞きつけ、つい覗いてしまった。


そこには案の定琴子が居て「いいでしょ、別に」と裕樹を睨んでいる。


「おい」と声をかけると「あっ入江く~んドキドキ」と俺を見て嬉しそうに顔を緩める琴子が居る。


手にはアイスのカップ??


「ねえ、聞いてよ入江くん。裕樹くんがね」と言いつけそうになる琴子に対抗して、裕樹が「お兄ちゃん、聞いてよ。琴子がさぁ」と応戦する。


「おっさんくさいって何だ!?」と当初の疑問を口にすれば、琴子が顔を真っ赤にして、裕樹が「琴子の行儀がなってないんだよ」とまるで琴子の教師かの様に伝えてきた。


「ちょ、ちょっと。入江くんになんて事言うのよ」と慌てる琴子に「一体何をしたんだ!?」と問いかけると、俯いてボソボソと何かを呟いた。


上手く聞き取れないが、ゲップをしたとか変な行動をしたとか、そういう品性を落とす行為はしてないみたいだ。


琴子の言い分からだが。


「だって、琴子と僕ってそんなに年も変わらないんだよ。なのにアイス食べて『体に染みわたる』ってなんなのさ」と怒る裕樹に心底馬鹿らしくなった。


「だって、だって、だって、熱いお風呂に入った後の冷たいアイスよ!? 身体に染みるくらいあるわよね」と同意を求められたが、本当にどうでもいい。


「俺、ビール飲むわ」とキッチンに向かえば、琴子が「じゃあおつまみ作ろうか」と妻の顔をしだす。


お前のつまみねぇ・・・。


「やめろよ、琴子。お前のつまみなんて、ビールどころかウォッカでも消せない味じゃないか」と止める裕樹に、お前は一体いつ酒の味を知ったんだと問いたくなる。


「えー、じゃあキムチでも食べる!?」と冷蔵庫を漁りながらキムチを出す琴子に、「そ、それならOKだ」と俺のつまみを監修する裕樹を思わず睨みつけた。


「もうっ煩いんだから。入江くんの子供でもないクセに」と怒る琴子に、子供だったらつまみに口出さないだろうと心の中でツッコミをする。


「ぼ、僕はお兄ちゃんの弟だ!! お、弟の務めとして、身体を壊す様な行為は慎んでもらわないと」と叫ぶ裕樹に、琴子は「煩い。これでも食べてて」と、さっきまで食べていたアイスのスプーンを裕樹の口に突っ込んだ。


俺を見ながらみるみる青ざめていく裕樹にかける言葉は思い浮かばない。


「待っててねー、入江くん。今キムチよそうから」と笑顔の琴子の横を猛ダッシュで消えていった裕樹を気にせずに琴子の手からキムチを奪って冷蔵庫に戻す。


俺を見上げて何かを言いかけた琴子の口を自分の口で塞いでしっかりと味わってから、冷蔵庫からビールを取り出してゆっくりと飲んだ。


「身体に染みわたるな」と琴子に伝えると、飲んだ訳じゃない琴子は床にペタっと座って、溶けかけのアイスのカップを(いつのまにか)持ちながらコクコクと頷いている。


それを冷凍庫に戻し、琴子を連れて寝室に戻るとアイスとビールで冷えたはずの身体を二人の体温で温め直したのだった。

 

* * *

4月ですね。本当は琴子がラブレターを書いた日が2日前だったので記念日投稿したかったのですが、バタバタしているうちに時間が経ってしまい、お風呂で考えたネタでそのまま書きました(^^;

私は記念日ネタよりも日常ネタの方が書きやすいみたいです(笑)