食堂で定食を持って席を探していたら、桔梗に手を振られたのでそこに落ち着く事にした。


桔梗と品川と小倉の3人で食べて居たらしい。


6人掛けの席はまだ3つ余っていたが、他にも来るかと思ったら俺だけのようだ。

 

琴子が居た時のクセで4人がけ以上の席を探してしまうらしい。

 

席について食べ始めると不意に桔梗が俺に話しかけてくる。


「入江先生も食堂派ですよね。お母様の・・・」


ギロッと睨むと桔梗は失敗したとばかりに口を噤んだ。


その一瞬の沈黙の隙をついて「ああー、どこかにいい男が落ちてないかなぁ」という声が漏れ聞こえてきた。


俺は違うと分かりつつも品川としっかり目を合わせてしまった。


品川は不快を隠さない顔で無言のまま、指で言った人物の方向を指し示す。


そこには琴子の後輩だろう看護師達が、こっちをチラチラと見ながらも楽しそうに会話をしていた。


小倉が「入江先生は落ちてないんですけどね」と残念そうな声で言う。


悪いが俺は自分を落としたいとは全く思わない。


「人が簡単に落ちてる方が怖いだろ」


どうでも良いが意識の無い成人男性の重さは、一般的な女性一人では全く持ち上がらないほど重い。


「あたしなら何とか入江先生なら・・・いえ、船津先生くらいの筋肉量だったら、まあ頑張れるかしらね」


「じゃあ、上げるわ」と即座に押し付けたのは品川。


「要らないわよっ」


そして即座に断ったのは桔梗。

 

頷く小倉も見た目に反していい性格だよな。


「ねえ、入江先生」と品川に聞かれ、食べる手を止めたら「琴子がいい男が落ちてたらって言ったらどうします!?」と真顔で聞かれた。


「言わないし、船津もそんな事言わないだろ」と俺が答えると、品川は嫌そうな顔をし、二人はうんうんと頷いた。


「琴子ならきっと、良い入江先生(くん)落ちてないかなって言いますよね」と何のフォローだと言いたくなる桔梗の発言に溜息をつく。


「あいつはそんな事言わない」


俺がそういうとみんなは「ええー!? 入江先生がそう思ってるだけで、琴子も言ってますよー」と否定する。


「言う訳がない」と俺が断言すると、皆はニヤニヤしながら「愛ですねぇ」と勝手に頷き合った。


「あいつは落ちてるから拾うという発想がない。何とか俺を落とそうとして失敗し、自分が変な穴に落ちる」と言うと、三人揃ってしっかりと頷かれた。


「「「琴子(さんです)よねーーー」」」


頭の中で、琴子が一生懸命罠を仕掛けようと頑張って自らハマる姿が浮かび上がる。


寧ろそれしか想像が出来ない。

 

そもそも自分はそんな単純な仕掛けには落ちないしな・・・。


ああ、でも・・・
「よお、入江」と西垣先生に声をかけられたので、食べ終わった盆を持って立ち上がった。


「西垣先生、あそこにいる看護師達が良い男を拾いたがっている様ですよ」と教えてやると、西垣先生はテーブルに盆を置いた後そのテーブルに向かって軽く手を振った。


「お前は琴子ちゃん一筋だもんな」とニヤニヤ笑われ「ええ、そうです」と答えて盆を持ってそのテーブルを後にした。


俺は落ちないが、勝手に落ちた琴子を救出しに、やっぱり俺も穴に飛び込むんだろうなと思いながら、携帯を開いて愛娘と一緒に微笑んでる琴子の待ち受けを数秒目に焼き付けた。

 

* * *

何だかんだ落ちてる琴子は拾いに行きそうな入江くんです(しかも最速で 笑)

今月のノルマはぎりぎり達成しました。

いやー冬休み期間何もしなかったから焦った滝汗

無事書けてホッとしてます。