俺が神戸から戻ってようやく二人の暮らしが戻って来た。


が、二人暮らしではなく、神戸前と同じくお互いの親を含めた3世帯同居だ。


その為、直樹の書斎は常に母の紀子が掃除していたが、今日はたまたま琴子がその掃除をした。


そして・・・それが悲劇の素になるのも最早お約束というが、これはもしや悲劇ですらないのかもしれない。



師も走るという師走なのだから、医者の卵である自分も忙しいものだと自覚しつつも過度の疲労を抱えながら家に帰って待っていたのは鬼のような形相の母と、気の毒そうな顔の弟だった。


また琴子かと思いつつ「今日は何だ!?」と顔をしかめて聞いたら、裕樹が「多分、お兄ちゃんのせいじゃないと思うけどさぁ」とフォローを口にする。


それに異を唱えるのが琴子の肩を持つ母で「そんな訳ないでしょっ お兄ちゃん、琴子ちゃんは今日休みだったのよっ 私は用事があっだから、この家を琴子ちゃんに任せて出かけてたんだけど」と言われ、十中八九それが原因だと思わずに居られない。


年末が近くなると夫婦での挨拶回りや食事会が増えるのは、大企業の社長夫人であるおふくろの立場としては仕方がない事。


特にオモチャ会社なので、クリスマス前は社員以上に忙しくなる時期でもあり、家を空けるのは理解している。


なので今日の様な事はままあり、特に問題になるとは思っていなかった。俺も当直じゃないし・・・。


だからこそ、一体何が起きているのか全く理解出来なかった。


「で、琴子は!?」と問うと、一時間前は寝室に籠って泣いていたらしい。


今は疲れて眠っているのか返事がないとの事。


流石に無遠慮に寝室に入ってほしいとは思わないが、せめて理由を聞いて俺が原因だと分かってから責めてもらいたいと思う。


疲れて帰って来たのに、家に帰って疲れが倍増するとはどういう事だと琴子に恨みをぶつけたくなってきた。


きっと原因はくだらない事なのだろうと辺りをつけ、話し合いも含めて琴子を起こす事にした。


俺の後に二人がついて来るのは何となく嫌だったが、昔俺らの喧嘩を放置して琴子が家出をした事もあり二人とも琴子に対して過保護になっている気がする。


まあ、その原因の一端は俺にあるのだけれど・・・。


さっさと誤解を解けば良いだけだと布団の上で泣き疲れて寝てしまっただろう琴子を揺すって起こすと、琴子の手がピクリと動き近くにあった写真に触った。


なんでこんなところにコレが!?


まさかそれが原因とは思わず、写真を折り曲げてしまわない様にベッド脇のサイドボードの上に置いた。


「おいっ 琴子。このままだと風邪ひくぞ」と声をかけると、琴子は「あっ 入江くん」と泣きそうな顔のまま俺を見つめた。


「なんだよ、まるで俺が浮気したみたいな顔してるけど」と不満をぶつけると、琴子は「そ、れは・・・」と唇をワナワナと振るわせた。


「浮気を疑ってるのか!?」


帰って来たばかり、しかも仕事が忙しく気が抜けなかった俺は未だ苛立ちを抑えられずにいた。


「あれは!! う、浮気だとは思わないけど・・・でも、そんなに大事だなんて思わなかったのよっ な、なんで、えーと、コレッ」と、さっきサイドボードに移した写真を俺に突きつける琴子。


薬師如来がどうかしたか!?」


俺の言葉に後ろの二人が膝から崩れ落ちて爆笑したのは言うまでの無い。

特に裕樹。


その後、泣きはらした顔の琴子を伴ってリビングに行き事情を聞くと、掃除中に俺の本棚のどこかからか落ちて来たらしい。


よく浮気相手の写真は見つかりにくいところから出てくるというけれど、俺の事は疑ってなかったのにまさか大仏と・・・と悩んで落ち込んだらしい。


馬鹿か、お前は!!


・・・いや、馬鹿だけどっむかっ


あまりにも馬鹿らしいので絶対に病院の皆には言うなと言ったが、後の祭りだった。


桔梗に写メで相談したんだと。


無論、次の日から病院の噂がそれで持ちきりだったのは言うまでもない。

 

* * *

ちょっと勘違いで・・・なんてネタを書こうと思ったら、なぜかこうなりましたてへぺろ

お祝いメッセージで面白い話大好きですなんて言われたので、つい・・・。