琴美の夏休みと、琴子の退院と新たに増えた子供の育児でてんやわんやな状況。


それでも日常は待ってくれず、日々家族の誰かに振り回されながらも仕事に打ち込む毎日。


休日といえども例外じゃなく、今年は猛暑で熱中症の救急搬送が相次いでいる。


「ねえ、パパ。みーちゃんを花火に連れて行けないかなぁ?」


まだ退院して数日の琴子に頼まれ「勿論、お前は留守番だよな?」と聞き返してしまったが、琴子は母親の顔のまま神妙に頷いた。


「そりゃ・・・行きたいのはやまやまだけど、琴音も生まれたばかりのまーくんも居るし、無理なのは分かってるもん」


むくれた様に言うが「でも、みーちゃんは別でしょ!? 兄弟の為におうちに居てねって言うのは酷だよ」とまるで自分の事のように切なそうに訴えた。


「忙しいけど、一日中じゃないし、琴美にも夏休みの思い出は必要だな」と頷くと、琴子は笑顔で「やっぱり入江くんは最高のパパだねラブラブ」と笑顔で言った。


医者なんて職業は自分の休みなんて無きにしも非ずだ。

特に勤務医ともなれば・・・。


「呼び出しの順位は下にしてもらうから・・・絶対とは言えないが多分なんとかなるだろう」


緊急呼び出しで何度琴子との約束を反故にした事か・・・。


最高のパパか。


少なくとも自分の親をそう思った事はない。親父は今も変わらず仕事中毒だ。


そして、それは俺もしっかりと受け継いでいる。


「じゃあ、明日の朝琴美と約束するよ」と琴子に伝えると、琴子は慌てて「それはダメ」と俺を止めた。


まさかのサプライズか!?


そう思って琴子を半眼で睨んだら「みーちゃんがね、パパの口から聞いただけじゃ証拠が残らないからって・・・て、手紙を、ね」と言いづらそうに伝えてきた。


「参った」


まさかの提案。そう来るか、琴美!!


「俺の子だな」と思わず呟くと、琴子も苦笑しながら「顔はあたし似なのにね」と相槌を打つ。


本当、俺たち二人の子だな。こうやって親は育てられて行くのか。


おふくろが慣れない育児に俺を女装させていたのも仕方がない・・・と、少し黒歴史を思い出していたら「あのね・・・」と琴子が言い出し辛そうに、また爆弾発言をした。


「昔、入江くんが着てた浴衣を」
「却下。琴美の浴衣は新しく買う」


琴子の言葉を遮ってそう伝えたら、琴子がきょとんとした顔で「ああ、うん。みーちゃんのは・・・あれ?お義母さんが新しく買っちゃったような??」と言いながら「でも、合っても困らないもんね」と無理やり納得したように言った。


いや、滅多に着ない浴衣が何着もあったら困るだろ。


いくら下に琴音が居たって、今は浴衣は普段着じゃねーんだし。


「いや、入江くんの浴衣がね・・・昔のでいいかな!?って、お義母さんが」と言われ、いつまで物持ちがいいのかと呆れた。


「俺の昔のっていつのだよ」と聞くと、琴子は「高校生の時と大学の時・・・くらい!? 浴衣だから少し大きく仕立てたって言ってたのよね」と言われ、そーいや貰っていた事を思い出した。


「・・・俺は浴衣は着ない。琴美の面倒を見るのに動きづらくなる」と言うと、琴子は納得した様に頷いた。


「じゃあ、ここにみーちゃんと花火へ行く事、浴衣を着ない事を書いてね」と花火柄の便せんを渡され、「分かった」という返事と共に溜息を吐いたのだった。

 

 


その後、無事に見た花火で琴美は感動し、毎年家族で行く約束をさせられた。


浴衣を着て見に行く約束も。

 

だたし、口約束なので紙ほどの効力はなかったけれど、愛しい娘との約束は破れないのだった。

 

* * *

7月31日 ノルマ達成滝汗 今回こそは間に合わないかと思いました。