新しい入院患者が入ってきた・・・まあ、日常だけど。


それがどうしたって話だけど、その患者が美人で薄幸だとこうして噂が広まるのが常ね。


今あたしの目の前で琴子がかつ丼を前に「はぁ」とため息をついている。


これは取り調べの一幕じゃなく、単なるお昼ごはん。


「何よ、そんなにガッツリ食べるのに溜息なんかついちゃって。だったらもっと軽いのにしときなさいよ」と言ったところで、何故か琴子の隣に腰をかけてくるのが麗しの入江先生。


因みに琴子の旦那様で超絶イケメン。


未だにこの二人が夫婦しているっていうのが、この病院の七不思議の一つね。


いや、大学から同期のあたしはその理由を知ってるけどねっ


しかも病院で噂されているのとは違って・・・でもないけど、入江先生が琴子の事を離さないのも知ってるけどねっ


「入江く~ん、美女だからって浮気しないよね!?」


涙目で隣の入江先生に問いかける妻は・・・すっごい情けない顔をして、美女とはほど遠い。


黙ってればそこそこ可愛い顔なのに、話すとそれもダメにしちゃう珍妙な人種な彼女・入江琴子。


入江先生が自分にベタ惚れなのを一番信じてないのは当の琴子というのが終わってるというか、喜劇というべきか。


しかも入江先生はそれがお気に入りで訂正してないという・・・悪魔よね。


ああ、絶対楽しんでるわ。と、横目でチラチラ見ながらあたしも食事をつつく。


ほら、優秀なあたしはお昼抜きだと倒れちゃうしね。看護師ってイメージよりも体力勝負で激務なのよ。


しかも、あたしは他の看護師と違って体力も腕力もあるんですもの。


入江先生は琴子同様に溜息をついて「それは俺が好みの女性について言及したからか!?」と琴子に問いかけなおす。


ほら、冷めるぞと食事を促す入江先生に琴子は「う、浮気は・・・疑ってない・・・けど、でも」と箸を弄びながら言い訳している。


聞くまで食べないと言ってるようだわね。


入江先生は「聞かれたから答えただけだ。恋人になってくださいとも恋人にしますとも言ってない」と言いながら味噌汁をすする。


この先生は割といつも定食を食べる事が多い。今日はサバの味噌煮か。

 

そっちにすればよかったわ。


「でも、あたしがいるからとかは言ってないんでしょ?」と無茶を言う琴子。


「当たり前だ。聞かれてないのに。だいたい、西垣先生も居たんだ。話の流れで俺にも振られただけで、世間話の一環だろ」と無表情で答える。


「まあ、琴子。あんたが入江先生の妻だっていうのは、どうせ周りから教えられるんだから先生自ら言わなくても」とフォローしたけど、琴子は「そーゆーのは入江くんが言ってくれてこそだと思うのっ」と持っていた箸を握りしめた。


「いちいち担当じゃない患者にあれこれ言う気はない。大体夫婦揃って同じ外科勤務なんて奇跡なんだから、揉め事を起こすなよ。飛ばされるぞ」ととんでもない事をおっしゃった。


琴子は渋々かつ丼を口に運ぼうとして・・・入江先生にパクッとやられた。


「あんまりガッツリ行く気なかったけどな・・・今日、お前日勤だろ」と確認して席を立たれました。


勿論、周りはキャーキャー悲鳴が上がっております。


食べづらいわーーー。


「桔梗、どーせお前は噂の真相を知ってるだろ。琴子に教えといてくれ。午後のやる気が違う」と命令を受け、あたしは静かに頷いた。


「モトちゃん、噂の真相って??」と琴子が入江先生がかじった後のかつ丼をモグモグしながらあたしに聞いてくる。


そこ!! 普通、赤くなって食べられなくなる話じゃないの!?


まあ、二人は夫婦だから・・・あっ これは続きを考えたらブリザードに襲われる流れね。


「えーと、入江先生の好きなタイプの話ね。健康な人って答えたのよ」


あたしがそういうと、琴子は「それはあたしも聞いたけど・・・だったらどんな人だって当てはまるでしょ」と悔しそうに言う。


「まー、看護師ならね。でも一部に当てはまらない人間が存在するのよ、例えば・・・入院患者とか」とあたしが真相を伝えると、ようやく琴子が笑顔になってかつ丼をかきこみ出した。


「良かったー。入江くんの奥さんになるのに体力いるもんねー」と言われ、あたしは滅茶苦茶背中に汗をかいた。


そういう生々しい発言はやめてーーーっ

 

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先日からネタをどうしようか悩んでましたが、ギリギリ本日書けました。

最近、書くのサボっているのでネタが思いつかず四苦八苦してます。

明日から6月なので、もう少し書く練習しておかねば。

最近の趣味が読書なので、その世界に入ると抜けるのが大変。

バランスよくが一番難しいショボーン