食後にリビングに移動したタイミングで、子供たちが見ているだろうテレビに反応したのは琴子だ。
「ねえ、入江くん。懐かしいね」と言われ、苦笑する。
もう夫婦となって長く、子供も順調に数を増やし、現在は10人もいる。
それなのに琴子はふと油断したタイミングで、『入江くん』呼びが飛び出す。
子供たちはまたかと思うらしく、誰もツッコミをしない。
10人もいたら誰かしら気になるだろうに・・・上3人が反応しないものだから、そういうものだと受け止められたのかもしれない。
ソファーに座りながらちょこまかと動く大樹を抱っこし、ゆっくりテレビに視線を戻す。
テレビには懐かしい今となっては大御所になった歌手を映していた。
「憧れたなぁ。ア・イ・シ・テ・ルのサイン」と言いながら口ずさむ琴子に、こっちは苦笑しか出ない。
アイシテルのサインのせいで、うちは10人兄弟となったと思うのだが・・・。
「今更バイクの免許は取らない」と言うと、琴子は「分かってるけど~」と頬を膨らませた。
居たたまれないと思うのか、琴美が「パパ、コーヒー飲む?」と聞いてくれる。
「ああ」と一言で返事をすれば、琴子が腰を浮かすよりも早く琴美がキッチンに走っていった。
「もうっ 入江くん。コーヒー欲しいなら、あたしが淹れたのに」と言う琴子に「入江くんは止せ」と注意をすると、琴子は「あっ」と言って舌を出す。
どこまでも昔に戻っているようで、ちっとも親に見えない。
歌はもうそろそろ終わるようで『ほら、思った通りに』と懐かしいフレーズを耳に届ける。
思った通りか・・・。
「ねえ、パパ。思った通りに・・・叶った?」と聞かれ、心臓がドキッと跳ねた。
少し考えた後、「まあ、概ね」と返事をすると、琴子は「おおむね?」と聞き返す。
「全部と言うほどは叶ってないけど、大体は叶えて来た。全部を望むのは人間の力では無理だ」と言ったら、相変わらずの琴子の頭の中は読めない。
「入江くん、神様になりたかったの??」
なんでそうなる・・・。
想定外の返答に言葉に詰まっていたら、琴音が「パパ、似合いそう」と余計な事を言った。
「だよね~」と俺の代わりに返事をする琴子。
似合うって、おかしいだろ!?
「あたしは反対ー」と琴美がコーヒーを置いてくれて助かった。
俺の上でコーヒーに手を伸ばそうとする大樹を抱いたまま立ち上がり、大樹を足元におろしてからコーヒーカップを立ったまま掴む。
そのままにしたら絶対に大樹にこぼされるから。
熱いまま口に流し込んでまたテーブルに戻すと「神になる気はないけれど、失う命が少なければ少ないほど俺の幸福は増えるだろうな」と言ってリビングを出る。
琴子が追いかけてきて「絶対、出来るよ。だって入江くんだもん」と妙な応援をしてくれる。
俺なら出来るか・・・。
そんな訳ないだろと思う心とは裏腹に「ああ、そうだな」と琴子の頭に手を置いてから2階の書斎に戻った。
当初の望み通りに医者になって、琴子と結婚して、子供も作って、その子供たちもすくすくと育って・・・。
思った通りに叶えられていく・・・琴子と共に。
でも、望みは後一人。
次は琴子似の女の子がいいなと思いながら、書きかけの論文の執筆を開始した。
* * *
今日で四月が終わりますね。
早い方はもうGWかと思います。うちも明日からGWでしょう。
予定ないですが
休みに入ったらPCの整理でも・・・と考えてましたが、ため込んだアレコレが全く終わってないという。
今年中には整理して、リコメもしたいです。お待たせしている皆様、本当にすみません。
先日、新規さまにお話を気に入っていただけた様でコメントいただきました。
まだイタキスが親しまれている様ですごく嬉しいです。ゆっくりですが、これからも続けていきますね。