「はぁ、桜が散る」


溜息をつきながらおむかえの庭の桜を眺めていれば、「縁起が悪いな」と裕樹くんの嫌味が返って来た。


「べっつに~、あたし裕樹くんに向けてなんか言ってないし」と返せば、「後一年我慢すれば会えるんだから」と慰めにもならない言葉をくれた。


「後一年って言葉を簡単に言うけどね。後一年って事はたった一言に365日が詰まってるのよ!!」


あたしが食って掛かると、裕樹は憎たらしく溜息を吐いて「どうせそんなに待たないだろ」とヒトの忍耐力の無さを馬鹿にする。


裕樹を睨んでたら「あのさぁ、お前はお兄ちゃんの妻だろ。前みたく行けばいいだろ、神戸へ。流石に休みごとに行くのは無理だろうけど、もう勉強もないんだしさ。・・・そ、そりゃ、仕事は大変だろうけど、でも一年間まったく会えない訳じゃないだろ」とフォローされて、「そっか」と腑に落ちた。


入江くんは神戸2年目で、あたしは看護試験に合格して晴れて看護師になった。


通っていた大学の隣の斗南病院で・・・。


みんなにも神戸に行かなかったの?って驚かれたけど、一言いわせて。


行けなかったのよ!!


あたしだって行きたかったわよ。


入江くんと四六時中どころか24時間一緒に過ごしたかったわよっ


「せっかく、せっかく、せっかく、看護師になれたのに・・・また一年も離れ離れなんて」


「残念は分かるけどさ、桜にあたる事はないだろ。向こうだって咲いてるんだし」と言われ、あたしは目をギンッと見開く。


「もう散ってるって!!」


昨日、入江くんに電話したら神戸の方はこっちより先に咲くらしくって、もう散り始めてるらしい。


ああ、一緒に桜を見てその桜の下で・・・。


「団子でも食うか?」
「そうね、団子を・・・って違う!!」


と思い切り否定したら、目の前にお義母さんがお団子の皿を置いてくれていた。


「桜と言えば桜餅だけど、先日食べたでしょ。今日はお団子の気分だったのよ、琴子ちゃんが食べたくないならパパにあげちゃうけど」と困った顔で問いかけられて「あっ食べます」と笑顔で返事をしてしまった。


ちょっと、裕樹。


団子があるなら言ってよね。


あたしの好きなみたらし団子を手に取ると、お茶を置いたお義母さんが「桜を見るとやっぱりお団子食べたくなっちゃうのよね」と苦笑しながら言い訳してきた。


「それはあたしもです」と言いながら、あまじょっぱいお団子を口に入れてモグモグ


「琴子、神戸でも山の方はまだ桜咲いてるってさ」って、パソコンでわざわざ調べたらしい裕樹くんが教えてくれた。


しかもプリントアウトしたみたいで、「ほら、これでお兄ちゃんと行けば」とアドバイスまでくれた。


「へぇー、地図付き。ありがとう」とお礼を言うと、裕樹くんがそっぽを向きながら「桜、咲かせて来いよ」と応援までしてくれる。


あたしはお団子を串一本食べきって、ダメ元で入江くんに電話をかける。


案の定いない入江くんの留守電に伝言してから、お義母さんと一緒に夕食づくりに励んだ。


お義母さんはあたしの手なんか必要ないけどさ・・・でも、あたしのためにね。


だって、入江くんに栄養たっぷりで美味しい手料理振舞いたいんだもん。


そんなあたしの努力が実ったのか、珍しく夜に入江くんが電話をくれた。


あたしは部屋で夜桜を眺めながら入江くんと喋る。


GWは神戸に来てもいいけど、6月までは忙しいから来られてもあたしをどこにも連れて行けないって。


だから・・・こっちで沢山入江くんの代わりに見てて欲しいって言われて了承した。


その代わり、夏は花見でも花火でも連れてってくれるらしい。


「夏休み楽しみ」と今から言うと、滅多に笑わない入江くんが笑う。


そして「仕事、頑張れ」と言われてあっさり電話を切られた。


頑張ったら入江くんに胸張って会えるもんね。


電話を切った後「来年は一緒に見ようね」と電話に呟いて、また夜桜を眺めた。

 



―――そして、2ヶ月後。入江くんがサプライズでこっちに帰ってきた。


結局、一年待たずに一緒に暮らす事が出来た。


流石に24時間一緒は無理だけどね・・・てへっ

 

* * *

新学期ですね。本当は今日は琴子が入江くんにラブレターを渡して玉砕した日ですが、そんな話が書けなかったので桜を題材に書きました。

実はまだこっちでは咲いてなかったりします。

今は花見も自粛ですが、綺麗な景色を見たり、楽しい事して免疫を高められたらいいですね。

今年の抱負はブログの整理。

そろそろ新学期に合わせて私も始動しようかと思います。