男がバレンタインデーのお返しに物を買って渡す風習も根付いてきたが、世間に根付いたからといって自分の習慣になっているかというと否だ。
だからといって、買わなくて良いという選択ができるはずもない。
独身時代だったら琴子に甘えてそれも許されただろうが、今は一児の父。
貰う相手は琴子だけじゃなく、娘の琴美も増えた。
なので苦手だから、どういうのを選んで良いかわからないからと、いつまでも避けるばかりでは愛しい娘に嫌われてしまう。
何故か琴子は俺を嫌わないだろうと自負はあるが、娘はそうじゃない。
あと少しで幼稚園に入園だが、今もプレ幼稚園とやらに通っている。
仲良くなりそうな人はいるらしいが、基本は入江の名にひかれて過去の知り合いらしき人に声を掛けられる方が多いらしい。
きちんとママ付き合いできるかなぁと悩んでいる琴子を元気づける為にも、琴子に何か買ってやりたいと思っていた。
まあ・・・あの手作り菓子に?という思いがない訳ではないが。
こういうのは気持ちだから。
・・・そのせいで、バレンタインデーに受け取った時も気持ちのみで完食した。
お礼―――自分に欲しいくらいだが、それは別な意味では貰っているから、全部をひっくるめてお礼でいいだろう。
じゃあ、渡すか。
琴美には大好きなアニメキャラのイラストが入った菓子屋のアイシングクッキーを。
琴子には同じ店だが、クッキーだの飴だのマシュマロだの、別な意味が付属しそうにない縁起が良いとされるバームクーヘンにした。
「琴子、ほら」と何でもない風に渡したのがいけなかったのだろうか。
普通、このタイミングで聞くか?とばかりに「あたしに?」と問われた。
なんとなく、そうだと言いたくない。
久々に俺の天邪鬼が顔を出す。
「違う」
「ええーーー!? そうなの??」
誰宛? 誰宛??と騒ぐ琴子に、中々やっぱりお前だとは言い出せない。
「あっ 分かった。病院のみんなでしょ。いつも夫がお世話になってますーってヤツね」と胸を張って答える琴子に耐え切れずに噴き出した。
「バーカ、お前に決まってる。目の前に出したのに、聞き返すから意地悪したくなっただけ」と正解を教えると、小さく「意地悪」と呟き返した。
こんな小さな箱をみんなに配ったら、お前の分なんか一欠けらも残らねーよ。
「病院の方には西垣先生にお金渡してるから、医師陣からという形で差し入れするはずだ」と言うと、琴子が「あっ そーだったね」と忘れててごめんという顔をしながら照れ笑いした。
「食べないのか!?」と聞くと、琴子は肩をビクッと振るわせて「えーと、しゃ、写真撮ってから、じゃ、ダメ!?」と可愛らしくおねだりする。
未だに俺に買ってもらった物は全て宝物らしい。
「まあ、好きにしろ。俺はコーヒーだけでいい」と言うと、琴子は「わかったー」と返事をして、俺が贈った菓子箱を手にしてキッチンに走って言った。
俺たちのやり取りとじーっと見ていた琴美が「パパ、あーん」と大好きなキャラのクッキーを俺の口にえいっと放り込む。
「パパにあげるー」と言われて悪い気はしないが・・・俺は琴子のコーヒーがすごく待ち遠しかった。
早く写真撮り終えろと近くに居ながら、念を送った。
* * *
PCを中古で買い換えました。
ですが、しばらく触ってなかったのでスマホで遊ぶクセがついてしまい・・・早い話がサボり癖が出ました。
3月は学校関連のイベントも多く、頭の中が忙しいです。
データ整理ついでに頭もすっきりしたいこの頃です。