日曜日の昼下がり、まだ大学も始まる前なので割と時間に余裕があった。
だから、久々にお義父さんと会話をしようとわざわざ煙草を用意してテラスに出ると、お義父さんが気付いて笑い「一本吸うかい?」と煙草の箱を向けてくれた。
「ありがとうございます」とその箱から1本もらい、煙草を咥える。
さて火を点けるかとライターを構えたところで「その唇で、琴子の唇を奪ったんだな」とボソッと言われ、煙草を吹いた。
足元に落ちたソレを慌てて拾い、また咥えなおす。
火がついてなくて本当に良かった。
お義父さんは琴子と似た笑顔で「直樹くんでも動揺する事があんだな」とおかしそうに笑った。
「ええ、まあ・・・」
返事をするのに煙草を口から外した。
もう煙草を吸う気が失せて、右手の指に挟んだままお義父さんの隣のデッキに前かがみにもたれてその様子を窺う。
お義父さんは太陽に目を細めながら「未だに信じられんのよなぁ・・・」とポツリと呟く。
「俺と琴子が結婚した事ですか!?」と聞くと、お義父さんは「あー、直樹くんが・・・琴子を欲しいと言った時の事は覚えてるし、俺も許可した。琴子の気持ちが叶って良かったな・・・とは思ってるんだ。この家には本当、良くしてもらったからな」としみじみ言われると、俺はこの人にもっと誠意を尽くすべきだった事を思い知る。
「親父やおふくろのしている事と、俺が琴子を欲したのは別な問題ですよ。確かに・・・琴子には酷い事をしてきました。今謝れと言われたら」
「そこは当人同士の話だろ」と一刀両断された。
まだ煙草を吸ってない。
このまま逃げてはいけないと思いながらも、琴子がコーヒーを届けに来ないかと窓の向こうをチラ見してしまう。
リビングに姿が見えないから、二階かキッチンだろう・・・きっと。
「直樹くんが琴子を気に入っているのは疑ってねーよ。ただなぁ・・・それがいつだろーなーとは、ちと考えていたがね」と言われ、自分でも悩む。
「・・・そうですね、自分でもその辺はよく分かりません。いつも目の前に琴子が居て、興味ないと言いつつ気付けば目で追ってました。はっきりと好きだと自覚したのは結構最近です」と白状すると、お義父さんは「そーだろーなぁ」と人の良さそうな顔で笑う。
そして煙草を吸って、思い切り「はぁー」と吐いた。
「直樹くんが結婚してくれて良かったよ。人の娘の唇を奪っておいて、何とも思ってませんとか聞いちゃーなぁ。同居してんのにキスまでしたんなら、結婚もあり得るのかって思ったり・・・やっぱ、琴子にせがまれて断れなくなったんだろーなぁって思ったり、たかがキッスなんだけどよぉ。でも、琴子が顔を真っ赤にして照れてるのを見ると、やっぱ親としては応援してやりたくなっちまってな・・・あっ 単なる親父の独り言だから、気にしねーでくれ。俺も答えは欲しくねーんだわ」と言って、残りの煙草を吸って消すと、リビングに入ってしまった。
流石に語れねーな・・・。
「参った」と呟いて、煙草に火を点けたら、琴子が「入江くーん、こんなところに居たー」と俺の隣にやってきた。
「煙草吸ってるところに来んなよ」と言ったが、琴子は「ダメ?」と甘えてくる。
「風上はこっちだから、そこに立っておけ」と言って、煙草をゆっくりくゆらせる。
「ねえ、お父さんと何話してたの!?」と聞かれるが、言える訳がない。
「話そうと思ったけどな・・・一人で考えたかったらしい」と言うと、琴子が「ふーん」と返事をして考え込む。
「孫の催促じゃないわよね!?」ととんでもない事をサラッと言って、俺は煙草を飛ばしそうになる。
本当に、親子だな・・・琴子とお義父さんは。
もう残りを吸う気も失せて、灰皿にまだほとんど吸っていない煙草を押し付ける。
「もう行っちゃう!?」と聞かれたので、「コーヒーが飲みたくなった」と言うと、琴子が嬉しそうな顔をして「あたし、淹れるね」と任せておけというポーズで言う。
「ああ、宜しく」と笑いながら言ったが、駆けて行こうとする琴子の手首を掴んでこっちに引き寄せた。
掠めとる様に唇を奪い「催促される前に作るか、孫」と言って琴子を慌てさせた。
「コーヒー・・・書斎で飲む」と伝え、リビングに戻って廊下に出る。
階段を上がりながら、この家が謝恩会のキスをきっかけに増築された事を思い出した。
「言えねーな・・・」
お義父さんに、娘さんとのキスは俺を忘れない様に嫌がらせでしたものですとは・・・絶対に。
あの時は未来にこうなると全く考えていなかったのに―――ザマーミロ=様を見ろとは言い得て妙だなと我ながら納得した。
* * *
Go To 続けますとは言いましたが、ネタを考え忘れてた
Nさん宅の連載完結したのを読んで、私も連載どうしようとか考えてますが書く時間が足りない。
ブログの整理中でもありますので、ある程度整えたらお知らせ載せたいです。
その前にリコメしなければ 7周年のお祝いコメントありがとうございました
やっぱりコメントいただくと、書きたい気持ちが上向きます。イタキス好きだと実感しました(笑)