結婚してというか入籍してから少しして、琴子が提案してきた。
「ねえ、入江くん。ドニーズ行かない?」と。
寝る前の些細な会話の範疇を逸脱するのが琴子らしいと言えばらしい。
多分そうだろうと予測をつけて「理由は?」と問い返してみれば「り、理由? 理由って??」と、慌てふためいている。
「理由も無しに寒空の中行きたいなんて思える訳ねーだろ」と今の外気温並の冷たさで答えたら、琴子は「勿論、今じゃないよ~」と笑いながら返事をし、ベッドに潜りこんでくる。
これはもう寝ますの意思表示だろう。
俺だってパジャマを脱いで着替えてまで出かけたくない。
いくら24時間営業だからと言ってもチェーン店の味はたかが知れている。
「今じゃなくても行きたいというほど魅力的な店じゃない」と琴子の提案を突っぱねたら、琴子は分かっていたかのように「まーねー」と言って頷いた。
「じゃあ、お休み」と言って電気を消すと琴子が俺にピタリと張り付いてくる。
「なんだよ」
これは抱いての合図か?と期待したら「入江くんはあたしの気持ちに気付いてくれない」と可愛い事を言うので、取り敢えず据え膳をしっかりといただいた。
琴子が疲れ果てて寝たので、この話はもう記憶の彼方だったが、それからまさか半年も経ってその話が蒸し返されるとは思わなかった。
「ねえ、入江くん。ドニーズ行きたくない?」と聞かれ「行きたいと思ってない」と冷たく言い切ると、琴子は「分かってるけどぉ、あたしの顔を立てて、ね?」とおねだりしてくる。
お前の顔を立てるって・・・。
「須藤さんか? それとも金之助? もしや、中川??」と琴子周辺にうろつく男性陣を上げると、琴子はブンブンと首を横に振って「もう二度と須藤さんなんかと関わるもんですかっ」と怒っている。
「じゃあ、石川達か」と言い直すと、琴子は正解とばかりに首を縦に振った。
「そうなの、そうなの。そろそろ前期テストの時期でしょ!?」と可愛くおねだりするが、基本的に琴子は一夜漬けだ。
こんな時期に勉強するはずがない。
きっと石川の策略だなとカマをかけて「そうだな。テストの時期には少ーし早いけど、琴子が自分から勉強を言い出すなんて今までは考えられなかったからな。勿論、おふくろにはしっかりと言っておくから俺に気兼ねなく勉強して来いよ。ドニーズで!!」と笑顔で言ってやると、「い、入江くんも来てよ~」と泣きつかれた。
毎度、毎度、そう余計な知恵をつけるならうちでとっとと勉強しろよと思いながらも、なんだかんだ琴子の『おねだり』には付き合ってしまう俺。
琴子は今年4年生だ。
俺は後2年あるから余裕だが、琴子は今年卒業しなければならない。
多少勉強を見るくらいの時間はつけてやるつもりだった・・・最初から。
ついでに琴子の見栄に乗ってやるのも、後からこっちの条件を有利に飲ませられる訳だしと騙されたフリをして付き合ってやる事にした。
「お前だけじゃなく、石川と小森にも教えたらいいんだな。だから俺達がバイトしていたあのドニーズに行きたいと」とこっちから場所を指定すると、琴子が「そーなの、そーなのよ。だってね、あたしってば入江くんの奥さんになった訳だし、未だに伝説の入江くんがまさか結婚してるなんてーーーはっ」と言って口を慌てて押さえた。
俺はニヤリと笑って「だろうと思ったよ」と言ったが、泣きそうになってる琴子に「行くぞ。石川達がスタンバイしてるんだろ。待たせたら店の迷惑だ」と言ってドニーズに向かった。
道中、琴子に「入江くん、怒ってない?」と心配そうに聞かれたが今更だろ。
単に家と反対方向だから行かないだけだし、そこがレストランのチェーン店なら大学生が利用するなんて極普通の事だ。
石川も小森も家がうちの方面とだから普段使ってないだけで、彼氏の家がこの辺だとでも言えば言い訳は立つ。
大学から二駅先のドニーズのドアを久々に開けると、懐かしい顔が俺を出迎えた。
「いらっしゃいま・・・入江さん、お久しぶりです」と笑顔で挨拶をする佐藤さんに軽く手を上げて挨拶をし「先に二人待ってると思うんだけど」と聞いたら、石川と小森がニヤニヤした顔をしながらこっちに手を振った。
「そちらのお客様は」と敢えて琴子を別な入店者にしようとする佐藤と制して「勿論、俺のツレ」と言ってやる。
琴子が嬉しそうに「入江くん」と小声で呼ぶので、しまったと思った。
俺の妻なのに、未だに『入江くん』呼びが抜けていない琴子ははっきり言ってこの店ではストーカー扱いだった。
まっ なんとかなるだろとそのまま席に行き、俺達もドリンクバーをオーダーする。
石川達が何か食べようかと提案するので乗っかって一緒に食事を取る事にした。
琴子が「お義母さんに悪いから」と断るが気にする事ないだろ。
ちょうど佐藤さんが注文を取りに来た時にわざと言った。
「おふくろの事は気にするな。高3からずっと一緒に住んでて俺らがデートで飯食って来たなんて日常茶飯事だろ。きっとどこかホテル泊って子供作って来いくらい言うぜ」と言ったら入力の端末を手から落として派手にテーブルにぶつけてた。
石川達なんか「「おばさんらしーい」」と大ウケしている。
琴子が顔を真っ赤にして「こ、このお店、二度と来れない」と呟いたのまでがお約束な出来事だった。
だからお前は詰めが甘い。
その後、しっかりと琴子を食べたのは言うまでもない。
* * *
とうとう、イタキス期間が始まる9月になりましたねー。
毎年主催者のソウ様が素敵なバナーを作ってくださいます
今年のテーマは『GO TO イタキス』
コロナ禍で中々出かけられない今なので、妄想旅を皆さんにお届けしようかと
出された初案に「いいね」の一言で乗っかりました(笑)
どこに旅に出るのか、はたまた琴子の妄想で終わるのか。
多分、70%くらいは妄想で終わらせるオチになりそうな予感ですが、自分が行った地域やら行きたい地域を調べて書きたいと思っています。
それと毎年琴子と直樹の誕生日の前日からカウントダウンチャットを開催しています(結婚記念日も)
場所はemaさん宅に会場を設置しますが、リンクで飛べる様に当日には調整しますね。
皆様のご参加お待ちしておりまーす。
では、素敵なバナーをどうぞ