その後、親父も合流してこの店で祝杯をあげ、おふくろの車を俺が運転して家族全員を乗せて帰った。

5人乗りなので、助手席に琴子。後ろに親父・おふくろ・裕樹を乗せる。

しかし、琴子は助手席といっても今日一日の疲れから爆睡中だ。

家に着いても起きないだろうな。

いつもは親父を支えるおふくろも今日の事でへべれけに酔って、珍しく親父が支えている。

「父さん、僕も手伝おうか!?」と裕樹が言っていたが、親父は「なに、ママくらいワシだって運べるさ」と言って肩を貸しつつ、ふうふう言いながら寝室まで引きずっていった。

眠ってる琴子は俺が運ぶからと、車庫入れまで車に乗せたまま。

家の車庫に車を納めると、助手席に周って琴子を車から降ろす。

心配で見に来た裕樹に車の鍵を預け「悪いけど鍵かけて車庫閉めてくれ」と頼んで琴子を横抱きにしたまま家に入った。

玄関で靴を脱がせると靴擦れが目に入り、まずはリビングに寄って手当をする。

いつもパワフルに動き回るから、こんな細い足だなんて思いもしなかった。

おふくろと同じで、何をしても壊れないヤツというイメージを抱いていたのが失敗だった。

聞こえないのを分かっていて「いままで悪かったな」と呟くと、親父から「縁があって結婚したんだから、どんな事情があろうとも大事にするのが夫の仕事だ。女性はか弱い生き物なんだから」と言われ、妙に心に染みた。

「明日言うとまた大騒ぎになるだろうから、今親父にだけ言っておく。俺は琴子と真の夫婦になりたい。子供も作って、二人で親になろうと思ってる」と言うと、親父は「ワシにだけじゃないだろ。アイちゃんも心配していたし、ママだって・・・。それに肝心の琴子ちゃんに一番に伝えなければならないんじゃないか!? ワシは聞かなかった事にするよ」と言われ、自分の覚悟が足りなかった事を痛感した。

「琴子が起きたら、まず琴子に伝える。お義父さんが帰って来たら、今日の事を詫びてお礼もするよ。おふくろには・・・明日の夜、お義父さんに謝罪した後にでも。多分、話が長くなるだろうから」と言うと、親父は「そうだなぁ」と言って苦笑した。

「ママの暴走も、お前が可愛いと思っての事だ。悪いが少しは受け入れてやってほしい。もし・・・そのぅ、二人が二人暮らしをしたいなら」と言い辛そうに言うが、それは考えてなかった。

「多分、その必要は無いんじゃないか!? その・・・琴子を妊娠させるつもりだから、そうなった時はおふくろに頼らざるを得ないだろう。それに琴子の料理の腕が」と言うと、親父がゆっくりと頷いた。

最初に食べた時のあの味を思い出したのだろう・・・。

あれは俺も忘れられない。

多分、一生

あれが毎日続くとなると、俺も離婚を考えたくなるだろうし、そもそも子供にも害だろう。

もう少しおふくろの協力が必要だ、絶対に!!

「今までのお詫びに、琴子のワガママもおふくろのワガママもある程度は受け入れるつもりだ。今まで俺の意見を押し付けていたのだから・・・それで琴子が子供を欲しくないと言うなら――」と俺が考えながら言ったら、裕樹が「それは大丈夫でしょ」と驚きの発言をした。

「「何で、裕樹が!?」」と俺と親父が驚いて聞いたら、裕樹が「僕の意見がこの家の男の意見だから。母さんと琴子の暴走止めてたの僕だからね」と頼もしい事を言う。

なんか・・・今まで本当に悪かったな。

「お兄ちゃんが琴子を好きって気づいたからさ」と俺から顔を背けながらも赤くする。

俺がジッと無言で裕樹を見つめていると、裕樹は観念したように「こ、琴子はここに来た当初から生む気満々だったよ。一番の心配は自分に似たらどうしようって事だったから・・・それが怖くて頼めないって。体外受精でもいいって覚悟決めてるからさ」とか細い声で漏らした。

「裕樹・・・好きな女を抱かずに孕ませる男はいないからな」と釘を刺すと、裕樹は「分かってるよ!!」と吐き捨てて、二階へ駆けあがった。

まさか、俺より先に裕樹を落としてたとはな・・・恐ろしい奴。

俺は平和な顔でグウグウ寝ている琴子を横抱きにして寝室へ連れて行き、琴子のベッドに寝かせた。

この溝を早く埋めたいと思いながら、俺は自分のベッドに腰を掛け琴子の寝顔を遠くから見つめていた。