琴子はもう仕事がないので、親父に食事がてら自宅まで送られるらしい。

そこまでしなくても・・・と内心思ったが、この中で一番弱い立場の琴子を一人にしては他の女性社員に囲まれる可能性があった。

それを心配した(過保護な)親父に肩を叩かれて「琴子ちゃんを自宅まで送るから安心してくれ」と言われた。

そんな事、わざわざ耳打ちしなくても・・・と思ったら、親父が去った後に重役から囲まれて、一番言われたくない事を次々に口にされた俺。

早く、社長に孫を見せなさいと。

さっき自分の口から言っておいて何だが・・・まだ琴子を抱けていない。

この企画書を書きながら、薄々その流れになるだろうなとは思っていた。

この玩具を作るなら、よりその方向になるだろう事も理解していた。

何故ならば0歳児から遊べる変形玩具の案なのだから。

俺としては、もう琴子と子供を作るのはやぶさかではない気持ちだ。

もちろん、琴子の気持ちを確認してからだが・・・。

一番のネックは俺が人嫌いだと伝えて、普通の夫婦生活は送らない事を結婚当初に宣言してしまっている事だ。

今更それを覆す発言をするのか・・・。

なんというか、悔しいというか琴子にやられた感があるが、心は妙に清々しかった。

半人前だからこそ、相手の力を借りて一人前の親にならねばな。

その為には前言撤回くらい社会人として当然だろう。

俺は家に帰った時にでも琴子に話そうと決め、仕事にまい進して定時に上がった。