月曜日。午前中から会議のため、俺と琴子は親父の社用車に便乗して会社についた。

琴子の事は俺から頼める訳がないので、親父の口から頼んでもらった。

親父も琴子には甘いから、二つ返事で引き受けていたな。

琴子に甘いというよりはおふくろに甘いのだろうが。

そんな事はさて置き、さすがに社長直々の頼みは断れないようで、会議室に琴子が静々とお茶のカートを押しながら入って来た。

琴子だけじゃなく本業の秘書課の人も一緒だ。

琴子をチラ見すると緊張した面持ちでコーヒーカップを手にし、プルプル震えながら置いているのでこっちがハラハラする。

コーヒーを出し終えて退出するのかと思いきや、親父が頼んだからだろうか。

琴子と秘書の席も椅子だけはあり、そこで待機するらしい。

じゃあ、俺の企画も聞くのかと覚悟したら本当に最後まで付き合っていた。

途中、あくびをかみ殺している姿を見た時ほどハラハラした事はない。

琴子に会議を聞かせるのは早計だっただろうか。

でも自分の発案の企画の行く末は気になるだろうからと、つい頼んでしまった手前最後まで付き合って欲しかった。

俺の発表の際はしっかり起きていて、それだけは少しホッとする。

ここで眠られていたら何のために居させたのか分からないからな。

俺の発表に関しては無難にまとめたつもりだが、琴子が盛大に拍手した為釣られて重役たちまで拍手をくれてしまった。

なのでこの企画が通ると宣言する前から決まったも同然な雰囲気にされた。

これで落ちたらどーするんだよ、お前!!



早く結果を知りたくて気持ちが急いてしまったが、俺の企画は社長の息子だからと前向きに検討するそうだ。

重役の一人から「社長の息子さんだからでしょうか。わが社の製品に関して近未来的な提案をくれましたが、当社の製品は既存のお客様に大変満足されています。この方向性を捨ててライバル社に迎合するかの様な製品はわが社の特色を軽んじ過ぎやしませんかねぇ」と言われ、琴子が立ち上がった。

「そんな事はないです!! 一生懸命、色んな人の意見を聞いて直樹さんがまとめてくれたんです。その案を出したのはあたしとお義母さんですから!! 今の時代、女性目線大事ですよ。所詮、玩具を買うのは母親なんだから」と啖呵を切り、俺を慌てさせる。

仕方がないので立ち上がって「妻が失礼しました。こちらは私達若夫婦が考えた企画で、これから親になる世代へ向けての提案です。まだ子供を持って居ませんので、実の親の意見を頼りに0歳からでも遊べる玩具をメインにわが社のメイン商品である超合金ロボに馴染みのある子供に育てる過程で使わせたい玩具の提案でした。いずれ子供を持ったら自作してみたいと思います。ただ、今居る子供達にも、超合金ロボだけではないパンダイの魅力を伝える事が出来れば幸いです」と締めくくると、またもや拍手が起きた。

今度は親父自らが拍手した様だ。

「えー、私からも一言・・・じゃすまないかもしれないが、聞いてくれんかね。普段は私の妻は会社の事に口を挟まない。それは私の父が立ち上げた会社で、私が大きくしたからなのだが、その分子育てに関しては妻に任せきりだった。そこに居る直樹をあやした事は実は無くてね・・・そういう意味では、我が子にどんな玩具を与えるかというのは妻に一任しておったよ。その目線を取り入れた息子の企画は親馬鹿かもしれないが、天晴と思った。しかも、妻に相談しながらも私にはその話を持って来なかった。私は今初めて会議室で企画書に目を通し、息子の考えを知った。私が育てた会社だから、超合金ロボの魅力は何時間喋っても語りつくせないくらいだが・・・えー、それを魅力に感じない人間も世の中には居るし、そういう世代がその内生まれ育ってもおかしくない。そうなった時に息子の案を廃案にしてしまうと取り返しがつかない。今はその時代じゃなくとも、いずれはその時代が来る事を覚悟しながら皆も考えてほしい。また、他の企画の様に当社の主力製品である超合金ロボの魅力を最大限にアピールするというのも悪くない。パンダイならば超合金ロボと言っても過言じゃないのだから、今良い波が来ているのに乗らないという手はないだろう。それを踏まえた上で、どの企画を採用とするか上で相談して結果を発表しようと思う。思いの外、様々な意見が交換できて私は嬉しいよ。皆も忙しい中、こうして企画会議に参加してくれてありがとう。この案が通らなかったとしても、その情熱は買うし何らかの形でそれに応えたいと思っておる。もうすぐ、クリスマス商戦が始まる。これから更に忙しくなるが、今後ともよろしく頼みます」

全然一言じゃなかったが、親父の言葉が総評としてこれも満場一致の拍手で終わって会議は終了した。

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気を抜いていたら予約投稿忘れましたショック! 初稿の整理番号は18なので、多分全20話くらいです。