「知らないとでも思ってるの?」

おふくろは腕組すると我が物顔で話し出した。

「ったく、2人ともそんなそぶりも見せないで、親をはめちゃって、人が悪いったら」

そんなそぶりって・・・たかが唇の接触じゃねえか。

親をはめてって・・・人が悪いって・・・

「そ・・・それは」

あれは琴子に対しての・・・決して『恋』だとか『愛』だとかの感情ではなくて・・・

「お兄ちゃん、違うよね。ママの空想だよね。なんでこんな奴とお兄ちゃんが、キ・・・キスなんて

裕樹が動揺して詰め寄りながら俺に聞く。

「こんな奴とはなんです、裕樹。将来のお姉さんに向って」

「「・・・!!」」

裕樹と琴子の2人が『将来のお姉さん』のフレーズに絶句する。

そして俺も「・・・・・・(してやられた!!)」

俺は何も言わずに琴子をジロっと睨んだ。

「あ、あたし、い、言ってない。言ってない」

しかし、琴子は必死に手を振ってジェスチャーをしていた。

そんな事お構いなしなマイペースなおふくろが俺たちを手招きする。

「さあさあ、2人とも入ってちょうだい。お部屋説明するわ」だと。


「ここが2人の寝室になるの」

おふくろがにこにこ顔で説明して歩く。

その部屋は12畳はありそうな大きさだった。

「・・・・・・むかっ

2人の寝室って

「でね、でね、ここが子供部屋」

いつの間にやら子供の事まで夢想してやがる。

おふくろが琴子を腕に掴まらせながら、説明を続ける。

琴子はテニスの試合で足を捻挫したままだ。

足を引きずりながら一生懸命おふくろについて行こうとしていた。

「足元に気をつけてね」とおふくろは琴子を気遣うが、それでも興奮は隠し切れないようで、言ってる割には進む速度は速かった。

「ちょっと気が早いかしらね」子供部屋を見ながらおふくろは夢見るように呟いた。

そして、ふふっと笑う。

ふふっじゃねえよむかっむかっ

「たしか前にその設計図は破ったような気がしたけど」

何が2人の寝室だ。子供部屋

「あらー、コピーくらいとってたわよ」

ぬかりはなくってよと指をチッチッと動かす。

わが親ながら、なんて奴だ。

「私は予感があるのよね。お兄ちゃんと琴子ちゃんが結婚することは。だからこの家は遅かれ早かれ建てて正解よ」

それは予感じゃなく、思い込みと言うんだ!!

誰がこんなトラブルメーカーと結婚したいと思うか。

俺はそんなに酔狂な人間じゃねえむかっむかっむかっ

勝手にどんどん決めるなよ人の人生をむかっ 

家を増築して俺を縛りつけようって魂胆か!?

「何言ってんの。キスまでしておいて」

おふくろがそう言って俺につめよる。

「・・・・・・」

それに関しては何も言うことは出来ない。

「あー早く赤ちゃんほしーわね。かわいいだろーな。やっぱ女の子よね」

いうことは出来ないが、しかし!!

キスしたぐらいで赤ん坊ができるのかよむかっ

俺は正論をぶつけた。たかがキスだろ!?

「じゃ、早く赤ん坊ができるようなことしてちょーだい」と、自分の母親とは思えぬ台詞がその口から飛び出した。

「チャンスはいっぱいあったでしょ!!
 んもー、お兄ちゃん奥手なんだから」

それが実の親の言う台詞か!!

琴子の意思は? 俺の意思は??

「この部屋できるまで裕樹はまたお兄ちゃんの部屋で一緒よ。琴子ちゃんの部屋、元に戻しておいたからね」

ま、またかよ。もう元通りか!?

「ひどい」と呟いて裕樹が泣く。

・・・同情するぜ、裕樹。

「さっさっ、話は終わったわ。2人とも着替えて。今日は「ふぐ吉」で祝賀会よ」

「「えっえ――――っ」」
という叫び声が琴子と共にハモった。

「貸し切りにしてもらってるから、さっ早く。パパも裕樹もね」

そういえば親父を見かけなかった事に今頃気がついた。

親父・・・・・・逃げやがったな!!