直樹ver

同窓会から数日経って、渡辺に連絡してみた。

あれから礼を言ってない上に話す事もままなかったから。

だが、琴子の看護課編入試験を控えて、すぐに飲みに行きたいという気分ではなかった。

「・・・渡辺? 入江だけど」

『ああ、入江。この間の同窓会は傑作だったな』

笑うようなことあったか?

電話をかけた途端の返事がこれだった。

「同窓会の件だけど、、、お前と全然話せなかったから」

『そうだな、一回飲みたいよな。琴子ちゃんの予定はその後どうなんだ? 入江』

相変わらず渡辺は頭の回転が速く、オレの気持ちを瞬時に読み取る術に長けている。

「ああ、琴子の編入試験の結果は3月初めに出る」

『じゃあ、3月中旬にでも飲もうか。なんなら琴子ちゃんも一緒でいいよ、オレ』

「琴子がいると俺が酔えない。一人で行くよ」

『じゃあ、その頃に』



渡辺ver

珍しく入江から連絡があった。

同窓会の件かな?

『・・・渡辺? 入江だけど』

相変わらず余計な事を喋らない無口な友人らしいで出し。

まあ、一人暮らしだから他に誰も電話出るヤツなんていないけどさ。

“渡辺くんいらっしゃいますか? オレは斗南高校の元クラスメイトの入江です”くらい言ってもバチが当たらないんじゃないかと思うんだけどね。

そうじゃないことが実に入江らしいんだけど、、、でも、過去の入江らしくないことがこの間あったな。

「ああ、入江。この間の同窓会は傑作だったな」

『傑作!?』

怪訝そうな入江の声を聞いて俺は吹き出したくなった。

お前は相変わらず・・・自覚なし、なんだな。

高3の頃から嫌ってほど見せ付けられたお前の琴子ちゃんへの独占欲

同窓会で丸出しだったんだけど。。。

あー笑いたい。笑いを堪えるのが辛いな。頬が引き攣る。

しばしの無言の後『同窓会の件だけど』と入江の声が聞こえて我に返った。

危ない、危ない。。。

『お前と全然話せなかったから』

入江は昔から義理堅い。

あまり人に知られてはいないけど・・・

入江はいつだって有言実行だった。

だから入江を怒らせるのは怖かったし、いつだって頼りになるヤツでもあった。

よく勉強を教えてもらったな。高3限定だけど。

「そうだな、一回飲みたいな」と言いながら、そういえば琴子ちゃんが看護師になるために勉強してるって入江が言っていたことを思い出す。

前に琴子ちゃんと会ったとき“あたし決めた”とは言われたけど、その一代決心の内容は聞かなかった。

琴子ちゃんは話そうとしてくれたけど・・・オレが即座にストップさせたんだ。

だって、、、入江より先に聞くなんてこと。

オレには恐ろしすぎて・・・ドクロ

「琴子ちゃんの予定は・・・その後どうなんだ?」

カマをかけて入江に聞いてみた。

同窓会では看護課の勉強って言っていたから編入試験でも受けるんだろう、きっと。

となると受験シーズンの今、入江を誘うと琴子ちゃんの邪魔をすることになる。

俺にはそんな恐ろしい真似は出来ない!!

「入江」

と声をかけると、入江も同じことを思っていたのか

『ああ、琴子の編入試験の結果は3月初めに出る』と返事が返ってきた。

入江・・・昔より格段に分かりやすくなっている(笑)

もう隠さなくていいからなのか?

結婚して、ほんとコイツ変わったよな。

これって琴子ちゃん効果かな。

素直な入江。。。

す、すげー笑いたい。今・・・電話で良かった。

「じゃあ、3月中旬にでも飲もうか」

そうだ、琴子ちゃんの合格記念も兼ねて飲むってのもいいかな。

どうせ入江がついてるんだ。合格間違いないだろう。

なんせあの『F組』の琴子ちゃんを中間テストの順位100番に押し込んだ実力の持ち主なんだから。

「なんなら琴子ちゃんも一緒でいいよ、オレ」

また二人の掛け合いを見るのも悪くない。

いや、むしろ見たい!!

夫婦になって、一体どんな感じに変化を遂げているのだろうか。

これはオレしか分からない醍醐味かも知れない。

などと思ってたら、、、

『琴子がいると俺が酔えない』と返事が返ってきた。

・・・お前、どれだけ嫉妬深いんだ??

酔った琴子ちゃんをオレに見せたくないって??

それとも普段の琴子ちゃんも男には見せたくない!?

『俺一人で行くよ』

と言われ、、、つれて来いなんて言える訳もなかった。

まあ、入江と飲めるのも珍しいからいいか。

「じゃあ、その頃に」

そう言ってお互い電話を切った。

ふぅ、、、楽しみと言えば楽しみ。

琴子ちゃんが居た方が、入江の惚気聞けそうで楽しそうだったんだけど・・・

俺の考え、見透かされたかな?