4限目が終わると昼休み。


琴子はお弁当無しなので購買に行かねばならないが、直樹に教科書を返す約束をしている。

直樹との約束は絶対なので、例え購買が売れ切れになったとしても3-Aの教室が優先だ。

昼休みに出て行く3-Aのクラスメイトとすれ違いながら、直樹と渡辺は琴子を待った。

ほどなく琴子が教科書を抱えてやってきた。

「ありがとう」の言葉と共に教科書を受け取ると直樹は席に戻って机に教科書を仕舞い、今度は弁当を手にして琴子の前に現れた。

「行くぞ」と琴子の腕を掴んで、スタスタと歩き出す直樹。

もう片方の手には弁当の包みが握られている。

それを見て渡辺も弁当を持って追いかける。

「今日は天気がいいから、外で食べるのもいいな。なっ入江」

「・・・ああ」

何も言わない直樹をフォローする渡辺は、やっぱりこの二人には必要だった。


どこを目指しているのか分からない琴子は腕を掴まれたまま、小走りでついて行く。

購買を通り過ぎ、何故か玄関へ出て「靴を履き替えろ」と命令された琴子。

言われるがまま靴を履き替えると、前を歩いて行く直樹の後を追う。

直樹はもう腕をひいてくれる事はしなかった。

琴子の後ろには渡辺が控えるようについてきた。

やはり直樹と琴子のフォロー役を買って出るのがクセになってるのかもしれない。

疑問に思いながらも後をついていくと、焼却炉が見える裏庭の花壇のそばのベンチに直樹は腰を下ろした。

それに倣って琴子も隣に腰を下ろす。

渡辺が琴子の隣に腰を下ろしたので、琴子は二人の間に挟まれるように座っていた。

「あの・・・私、お昼が無いから」

買いたいと言おうとしたが、直樹が「これ少し食べておけ」と自分の弁当を手渡した。

「あ、ありがとう」

直樹の優しさに感動する琴子。

「オレ、ちょっと買ってくるわ」と席を立つ直樹に琴子はついて行こうと思っていた。

が、渡辺がやんわりと琴子を止める。

「琴子ちゃん、入江が来るまでお弁当を食べてよう」

「えっ!? でも・・・」

「食べないと後で困るよ。しかも、今・・・入江公認の間接キス出来そうだけど?」

イタズラっぽく笑って渡辺は琴子にお弁当を促した。

琴子が食べ出した時、焼却炉の方ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

直樹が焼却炉にゴミ捨てをしに来た生徒に「ちょっといいか?」と尋ねたのである。

直樹に憧れている生徒は琴子だけではない。

声をかけられた生徒は有頂天になりたい気持ちとは裏腹に、直樹と距離をとっていた。

「い、今じゃないと駄目ですか?」赤くなりながらゴミ箱を手に女生徒たちが応える。

「ああ、今がいい。そのゴミ箱の中身が欲しくてね」

びくっとゴミ箱を手にしていた3人の肩が同時に震えた。

それを見た直樹はゴミ箱を奪うと中からカバンを取り出したのだった。

「琴子、あったぞ!!」

そう言われた琴子はお弁当をベンチに置いて急いで直樹の元に駆けつけた。

「あたしのカバン?」

「じゃないか!?」

確認してみろよと言われ、中を開いて確認すると教科書、ノート、ペンケースにお弁当までもがきっちり収まっていた。

・・・朝、詰め込んだまま、実に綺麗に原型を保っていた。

「あたしのだ!! 入江くん、ありがとう」にっこり微笑んでお礼をいう琴子。

それを見た直樹は「他にいうことがあるだろ?」としかめっ面で聞く。

「えっ・・・入江くん、大好き

きゃっ 恥ずかしいと顔を赤らめる琴子。

対する直樹は「それじゃねえ!!」と怒り心頭。

「えっ? 何??」

直樹の怒りの理由が全く分からない琴子である。

呆れたように「なぜ、ここにカバンがあるか考えてみろ」と琴子に告げる直樹。

「入江くんが見つけてくれたから」単純明快に答える琴子。

「・・・お前なぁ」

琴子じゃ話にならないと、固まっていた女生徒たちに向き直り、直樹は低い声でこういった。

「これって、犯罪だよな」

「えっ?」と琴子が驚く。

それを見てため息をつく直樹

「こいつのカバンを盗んで、しかも焼却炉で証拠隠滅を目論んだ。立派な犯罪だろ」

「あっ・・・そっか」とようやく琴子が納得する。

「入江くんはその為に付き合ってくれたんだ」

「当たり前だろ!! 学校でトラブル起こるとおふくろが煩い。おふくろはここのPTA副会長でね。学校でトラブル起これば簡単に耳に入る。しかも自分が面倒を見ている琴子がトラブルに巻き込まれたなんてしれたらただじゃ済まないだろ?」

「で、こいつらどうしたい?」

あごで女生徒たちを琴子にさし示す。

「うーん、別にカバンが戻ったからいいよ。騒いだらおばさんに迷惑かけちゃうし、入江くんにも迷惑かけちゃったし」

あっけらかんという琴子に直樹はため息をついて「分かった」と一言告げてその場を後にした。

カバンを持って後に続く琴子。

直樹はさっき座っていたベンチに腰をかけると琴子の食べかけだった弁当を手に取った。

「こんなに食いやがって・・・」

そういいながら、渡辺が予言した通り箸の間接キスしながらお弁当を食べはじめる直樹。

琴子は自分のカバンから弁当を取り出すと、再び直樹の隣に腰を下ろして弁当を食べ出した。

「琴子、そっちの弁当半分よこせ!!」

さっき自分の弁当を食べられた腹いせに直樹が琴子の弁当を強奪する。

「あっまだ食べてないのに・・・」

二人とも、さっき捨てられていたという事実を思い切り無視してひとつの弁当を仲良くつついていた。

“俺、すごく邪魔かも・・・”

渡辺は自分の弁当をさり気無く片付けて「図書館行ってくる」と告げ、そっとベンチを後にした。


* * *

書けなかったエピ


保健室に行くといった直樹は用務員室で鞄を見なかったか聞いてます。


でも、上手く話しに盛り込めなかったので放置。。。