暗闇の中に「ねぇ」と問いかける声が聞こえる。

気のせいだ。空耳だ。

「・・・ねえ」

諦める気がないのか? オレはもう寝てる!!

ムシしたかったが、もしやトイレに行きたいからどけろと言われる可能性を考慮し返事をすることにした。

「なんだよ」

「あたし鳥目なんだけど、豆球つかない?」

そんなこと知るか。

「真っ暗でトイレにもいけないよ」

寝てれば行かなくてすむ。

「オレは真っ暗でないと寝れないんだ」

だいたいココはオレの部屋だ。

「オバケでるよ」

おばけ? お前は小学生か??

「・・・・・・ったく」

呆れ果てて電気のスイッチを入れるためにオレは起き上がる。


「ご、ごめんね。おやすみなさい」

望み通り豆球をつけてやると、ようやく琴子がおとなしくなった。



かと思ったのもつかの間

「ねえ」

やっぱり黙ってない琴子

「なんだっ」

オレは徐々に怒りのボルテージが上がってく。

「やっぱり寒くない?」

「寒いに決まってるだろ!! 背中も寒いよ」

何を当たり前のこと聞いてるんだ。

「やっぱり・・・あたしが下にいく」

そう言ってベッドから琴子の動く気配がする。

「もういいから!! 早く寝な」

「・・・・・・でも」

全然寝る気配のない琴子。

朝までこんな押し問答続ける気か!? こいつは

「・・・・・・わかったよ。おれもそっちに行きゃいいんだろ」

琴子の行動に呆れ果てて、俺は自分のベッドに移動することにした。

お前がごちゃごちゃいうから悪いんだぞ!!

「えっ ち、ちょっ、ち・・・あ、あた、あたしは下に・・・」

動揺して口をパクパクさせている琴子。

「いーよ、こーすりゃお前も静かになるだろ」

間近で見る琴子は俺の言葉に顔を赤くして固まっている。

自分でこのオレを煽ったクセに。

無自覚ってヤツはほんと無駄にでかい爆弾だな。

たまには自爆しろよ爆弾

「おい、おまえキンチョーしてる?」

分かってて意地悪く聞いてみる。

だってオレはひとでなし冷血漢だからな(根に持ってます)

「キ・・・キンチョー な、なんて」モゴモゴと口答えする琴子。

「オレと一晩すごすんだもんな。何かあるかもって・・・

キスしたり、もっとそれ以上のことしたり・・・」そんなことある訳ないのに無駄に煽ってみる。

「い・・・入江くん」琴子が呟く。


ザマーミロ

「と・・・期待させたけど」


琴子をからかってちょっとすっきりしたオレ。

「悪いけど、オレは何もしねーよ。おやすみ」

普通の声のトーンでおやすみを言い、寝ることを促した。


「お・・・おやすみ」と琴子の小さな声が聞こえた。


これでいいと思ったら、触れている琴子の腕から微かな振動がオレの背中に伝わってきた。

泣いてる・・・よな。

好きなヤツと一緒の布団に寝ることができたのに『何もしない』宣言されて。

こいつなりに『女の魅力ない』とかきっと考えてるんだろう。

もし、この状況がおふくろの策略じゃなかったら・・・

オレが自分でこいつを泊めてたら。

オレは――― おれは??

「落ち込んでんだろ?」

余計な事は考えまいと、琴子の気配に集中することにした。

びくっと肩が震える気配がオレの背中に伝わる。

「お、落ち込んでなんか・・・」

琴子の涙声が聞こえた。

「おれ、オフクロの思うツボにはなりたくないから」

別に琴子が泣いても構わないはずなのに・・・


「もし今日お前となんかあってみろ。まんまとひっかかって、一生あの人の思いのままにされちまうからな」

一体何をいい訳してるんだ、オレ?


「というわけだから・・・期待しないで寝てくれよ」

琴子にどう思われてもいいはずなのに・・・


「・・・・・・ホモかと思った」と聞こえた瞬間、ふざけるなと叫びたくなった

「もう話しかけんなよむかっ


オレが琴子に話しかけるなと言ったから・・・?


オレにとっては長い時間の沈黙。


時計をみればきっと5分もたってないであろう時が流れ、、、

あろうことか琴子はオレの横で自由闊達に熟睡していた★★★

何なんだ!! この寝相の悪さはっ

お前、、、オレに惚れてるんじゃないのか
何でお前に恋愛感情のない自室にいる俺が眠れず、オレに片思い中のお前が熟睡なんだ!!

少しは恥じらいを持て!!!

オレは男性なんだ!!!

信用するな!!!

普通信じるか!? 『何もしない』って言ったが。。。

このやろう。何かしたくなるじゃねえか

「入江くん、、、だ~ぃ好き♪」

甘い声で・・・オレを好きという琴子。

実は自宅にいる時も聞こえてた。

おふくろがオレと琴子のベッドを同じ壁際に配置してたから、たまに琴子の寝言は聞いてたんだ。

あの時と同じ、、、いや、それ以上に壁という隔たりもなく熱が伝わる距離で寝るなんて狂気の沙汰だ。

「チョコ、、、ふふっ、頑張ったよ」

幸せそうな寝顔。

思わず寝顔に見入ってしまったが、生憎よだれを垂らしながら寝る琴子に色気は皆無で、、、

おれは頬をつつくだけで留まることに成功した。

こんな寝顔、、、毎日見たら、、、見たら??

慌てて琴子に背を向けて寝ることに集中したら

後ろからドスっと蹴られた

「ったく、信じられねーな。こいつだけは」

こうしてオレは琴子の寝相と格闘しつつ、余計な事を考えるまいとアドレナリン作用について一晩中考察を練っていた。


―――翌朝、すっきりと目覚めた琴子と対照的に、オレは思考力が極度に減退していて何も考えられないことだけが幸いだった。