琴子はこの日、入江家のリビングで紀子とテレビを見て談笑してた。
同居してから1ヶ月経過し、魔の中間テストも終わった。
本来なら高校生は自宅なんかに籠もらず友達と外を満喫しているだろう。
しかし我が家にいる高校生二人は何故か揃ってリビングにたむろっていた。
一人はテレビを見、もう一人は本を読む。
なぜ出かけないのかと牽制しあってるかのように、微妙な距離で二人はお互い自由な時間を過ごしているようだ。
そこに一人の男性が顔を出した。
「おはようございます」
琴子の父・重雄が遅い起床をへてキッチンにやってきたのだった。
「相原さん、おはようございます」と紀子がキッチンに歩いていく。
朝ごはんの準備をするためだ。
「あっ、おばさん。私やりますからいいです」琴子も続く。
「奥さん、おかまいなく。オレ、自分でやりますから」と、おじさんの声も聞こえた。
三人がキッチンに立ち、和気藹々と話しながら何かを作っている。
その光景に一人取り残されたかのような自分。
ふと喉が渇いてオレもキッチンに向かっていく。
「おふくろ、コーヒーが飲みたいんだけど」
「分かった、すぐ淹れるわ」
琴子と楽しそうにおしゃべりしていたおふくろが笑顔で応える。
おじさんが食卓でごはんを食べる後ろで、おふくろはオレのためにコーヒーを用意していた。
その後ろを琴子がウロチョロしている。
「コーヒー豆はここ。・・・それでこうしてセットして、やかんからお湯を回し淹れるの。そうそう上手よ」
「ふぅ、出来た!!」
「はい、入江くん。どうぞ♪」
気付けば目の前に琴子が立っていて、オレの前にはコーヒーカップがリビングの机に置かれていた。
「ああ、サンキュー」
一口飲む。
何かいつもと違う気がした。
もう一口飲む。
香りが豊かで味もいつもよりまろやかに感じる。
「おふくろ、豆変えた?」
「いいえ、いつものよ」
「変?」
「いや、今日の方が美味いくらい」
「きゃー♪やったわ。琴子ちゃん。美味しいですって!!」
「おばさま!! 嬉しい♪♪」
おふくろと琴子の嬌声におれは顔をしかめた。
おじさんがいる前で何をやってるんだ。
そのときおじさんもご飯を食べ終え、キッチンを睨んでいたオレと目があった。
おじさんは穏やかな顔で手を合わせて「ごちそうさまです」と言うとキッチンのシンクに食器を下げ、洗い出した。
おふくろが私がやりますよと告げている。
琴子は「お父さん、お茶飲む?」と聞いていた。
「ああ、もらうかな」おじさんも琴子に声をかけていた。
なんとはなしにキッチンの様子を見ていると、おじさんと琴子とおふくろ三人がダイニングテーブルでお茶を飲んでいる。
何となく、あっちが親子のようだ。
しかし、ゆっくりお茶をすすっている三人の会話は
「琴子、あまり直樹くんに迷惑かけんじゃねえぞ」
「分かってるわよ」
「相原さん、迷惑なんて思いませんわ。将来、琴子ちゃんみたいな娘が欲しかったんですもの。私たちはいつか親子になるかもしれないんですのよ。いつでも頼って下さいな」などと、おふくろが余計な事を言っていたりする。
どなりたいが、おじさんに気を悪くさせる訳にはいかない。
「オレ部屋に帰る」と告げてリビングを出ようとしたら
おじさんが「直樹くん、本当にすまんね」と謝りながら、キッチンを後にした。
その後ろから琴子が「お父さん、行ってらっしゃい」と声をかける。
そっか、おじさんは出勤の時間だ。
しかしオレはこの時まだ気付かなかった。
琴子はおじさんと親子の時間を過ごしていたことに。
キッチンにコーヒーカップを返して、部屋に行こうとすると玄関を出ようとするおじさんに会った。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
挨拶を交わし、おじさんは玄関を出、オレは二階の自室に行く。
部屋に入ったが特にしたいこともなかったので、本屋にでも行こうと財布を持って再び部屋を出た。
リビングに顔を出し、本屋に行くと告げるとおふくろから「待って」と声がかかった。
外出ついでに買い物を頼みたいらしい。
しかもついでに琴子も連れて行けとおかしな命令も追加された。
「買い物行くのに足手まといつれて行けって一体何のミッションだよ」
そう言うと
「琴子ちゃんはまだ近所のお店そんなに覚えてないでしょ。案内くらいしてあげなさい」と無駄に面倒見のよいおふくろがいらない知恵を琴子に吹き込んでいる。
どうしても二人きりにしたいらしい。
さっきリビングに居たのもおふくろが部屋の掃除をしたいからリビングにいろと命令したからだったのに、全く面倒くさい。
ここで揉めると一日が不愉快な日になりそうだったので、さっさと買い物を終わらせ自由時間を得ることにした。
「相原、さっさと行くぞ」
「えっ。は、はーい」
いくつもりが無かったらしい琴子は弾かれたように立って、座ってたダイニングの椅子を倒し、あたふたと戻してからリビングにあらわれた。
「もう行けるのか?」
「えっ? えっと・・・」
「行かないならいい。行くならすぐ用意しろ」
「は、はい。行きます。ちょっと待ってて」
言うないなや階段をダッシュで上り、部屋へ入った琴子。
何かを持って降りてきたかと思ったら、後3段というところで足を滑らせた。
「うわっ」
叫んで・・・痛みに備えてぎゅっとつぶった目を開くと、目の前に直樹の顔があった。
「ったく、何やってんだよ。人んちの階段壊す気か」
なんと、琴子は直樹に体を支えられていた。
「えっ? えっ? きゃ―――」
慌てて身をよじると、直樹を突き飛ばし、自分は廊下に尻餅をついた。
「ってー。てめぇ、助けた人間にこの仕打ちか!?」
「あっ、ごめん。ごめんね。ビックリして・・・」
小さい声で「ありがとう」とつぶやいていた。
「・・・出かけるぞ」
急なことで何も出来なかった母はカメラを捜しに部屋に飛んでいっていた。
この隙に出かけねば、新たな災厄が降ってくるに違いない。
同居してから1ヶ月経過し、魔の中間テストも終わった。
本来なら高校生は自宅なんかに籠もらず友達と外を満喫しているだろう。
しかし我が家にいる高校生二人は何故か揃ってリビングにたむろっていた。
一人はテレビを見、もう一人は本を読む。
なぜ出かけないのかと牽制しあってるかのように、微妙な距離で二人はお互い自由な時間を過ごしているようだ。
そこに一人の男性が顔を出した。
「おはようございます」
琴子の父・重雄が遅い起床をへてキッチンにやってきたのだった。
「相原さん、おはようございます」と紀子がキッチンに歩いていく。
朝ごはんの準備をするためだ。
「あっ、おばさん。私やりますからいいです」琴子も続く。
「奥さん、おかまいなく。オレ、自分でやりますから」と、おじさんの声も聞こえた。
三人がキッチンに立ち、和気藹々と話しながら何かを作っている。
その光景に一人取り残されたかのような自分。
ふと喉が渇いてオレもキッチンに向かっていく。
「おふくろ、コーヒーが飲みたいんだけど」
「分かった、すぐ淹れるわ」
琴子と楽しそうにおしゃべりしていたおふくろが笑顔で応える。
おじさんが食卓でごはんを食べる後ろで、おふくろはオレのためにコーヒーを用意していた。
その後ろを琴子がウロチョロしている。
「コーヒー豆はここ。・・・それでこうしてセットして、やかんからお湯を回し淹れるの。そうそう上手よ」
「ふぅ、出来た!!」
「はい、入江くん。どうぞ♪」
気付けば目の前に琴子が立っていて、オレの前にはコーヒーカップがリビングの机に置かれていた。
「ああ、サンキュー」
一口飲む。
何かいつもと違う気がした。
もう一口飲む。
香りが豊かで味もいつもよりまろやかに感じる。
「おふくろ、豆変えた?」
「いいえ、いつものよ」
「変?」
「いや、今日の方が美味いくらい」
「きゃー♪やったわ。琴子ちゃん。美味しいですって!!」
「おばさま!! 嬉しい♪♪」
おふくろと琴子の嬌声におれは顔をしかめた。
おじさんがいる前で何をやってるんだ。
そのときおじさんもご飯を食べ終え、キッチンを睨んでいたオレと目があった。
おじさんは穏やかな顔で手を合わせて「ごちそうさまです」と言うとキッチンのシンクに食器を下げ、洗い出した。
おふくろが私がやりますよと告げている。
琴子は「お父さん、お茶飲む?」と聞いていた。
「ああ、もらうかな」おじさんも琴子に声をかけていた。
なんとはなしにキッチンの様子を見ていると、おじさんと琴子とおふくろ三人がダイニングテーブルでお茶を飲んでいる。
何となく、あっちが親子のようだ。
しかし、ゆっくりお茶をすすっている三人の会話は
「琴子、あまり直樹くんに迷惑かけんじゃねえぞ」
「分かってるわよ」
「相原さん、迷惑なんて思いませんわ。将来、琴子ちゃんみたいな娘が欲しかったんですもの。私たちはいつか親子になるかもしれないんですのよ。いつでも頼って下さいな」などと、おふくろが余計な事を言っていたりする。
どなりたいが、おじさんに気を悪くさせる訳にはいかない。
「オレ部屋に帰る」と告げてリビングを出ようとしたら
おじさんが「直樹くん、本当にすまんね」と謝りながら、キッチンを後にした。
その後ろから琴子が「お父さん、行ってらっしゃい」と声をかける。
そっか、おじさんは出勤の時間だ。
しかしオレはこの時まだ気付かなかった。
琴子はおじさんと親子の時間を過ごしていたことに。
キッチンにコーヒーカップを返して、部屋に行こうとすると玄関を出ようとするおじさんに会った。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
挨拶を交わし、おじさんは玄関を出、オレは二階の自室に行く。
部屋に入ったが特にしたいこともなかったので、本屋にでも行こうと財布を持って再び部屋を出た。
リビングに顔を出し、本屋に行くと告げるとおふくろから「待って」と声がかかった。
外出ついでに買い物を頼みたいらしい。
しかもついでに琴子も連れて行けとおかしな命令も追加された。
「買い物行くのに足手まといつれて行けって一体何のミッションだよ」
そう言うと
「琴子ちゃんはまだ近所のお店そんなに覚えてないでしょ。案内くらいしてあげなさい」と無駄に面倒見のよいおふくろがいらない知恵を琴子に吹き込んでいる。
どうしても二人きりにしたいらしい。
さっきリビングに居たのもおふくろが部屋の掃除をしたいからリビングにいろと命令したからだったのに、全く面倒くさい。
ここで揉めると一日が不愉快な日になりそうだったので、さっさと買い物を終わらせ自由時間を得ることにした。
「相原、さっさと行くぞ」
「えっ。は、はーい」
いくつもりが無かったらしい琴子は弾かれたように立って、座ってたダイニングの椅子を倒し、あたふたと戻してからリビングにあらわれた。
「もう行けるのか?」
「えっ? えっと・・・」
「行かないならいい。行くならすぐ用意しろ」
「は、はい。行きます。ちょっと待ってて」
言うないなや階段をダッシュで上り、部屋へ入った琴子。
何かを持って降りてきたかと思ったら、後3段というところで足を滑らせた。
「うわっ」
叫んで・・・痛みに備えてぎゅっとつぶった目を開くと、目の前に直樹の顔があった。
「ったく、何やってんだよ。人んちの階段壊す気か」
なんと、琴子は直樹に体を支えられていた。
「えっ? えっ? きゃ―――」
慌てて身をよじると、直樹を突き飛ばし、自分は廊下に尻餅をついた。
「ってー。てめぇ、助けた人間にこの仕打ちか!?」
「あっ、ごめん。ごめんね。ビックリして・・・」
小さい声で「ありがとう」とつぶやいていた。
「・・・出かけるぞ」
急なことで何も出来なかった母はカメラを捜しに部屋に飛んでいっていた。
この隙に出かけねば、新たな災厄が降ってくるに違いない。