体育祭が終わり少し経った頃にそれはやってきた。

いい加減進路を決めなければならないが、未だに決めかねている俺の進路。


親父の希望は自分の母校のT大


対するおふくろは大学なんかどこでもいいらしい。


琴子を俺の嫁にするというとてつもない野望を抱いている方が面倒ではあったが、、、


そして、自分。


未来に何の夢も抱けていない。


あの琴子ですら進路は決まっている。


正確にいうと斗南大に進学したいということだけだが。


足切りさえクリアすれば未来はまだ夢が見れるらしいと無駄に勉強も頑張っていた。


・・・斗南大にエスカレーター進学するのも悪くはないんだけど、な。


とりあえず担任と親父の希望を受け入れてT大をの第一希望欄に書くことで了承を得た。



三者面談当日


俺はおふくろが専業主婦ということでトップで面談を受けることになっていた。


担任も俺をT大に入れることで箔をつけたいのだろう。


俺の進路希望は第一希望(仮)T大、第二希望 斗南大 第三希望 白紙だった。


T大に落ちれば斗南にエスカレーター


普通ならW大やK大なんかも希望をかかせるところ、俺は首席ということでその辺は免除らしい。


そして面談の時間になり、おふくろと共に面談室に足を踏み入れた。


「おかけください」


担任がおふくろと俺に着席を促す。


斗南の面談室はソファーなのでゆったり座れる。


担任教師が資料を見ながら俺とおふくろに説明するように話し始めた。


「えー入江くんはわが校始まって以来の秀才ですので、成績は首席をキープしてますし、実技の必要な授業も全てオール5。もうT大に合格間違いないのでお母様ご安心ください」と、おふくろに向かってゴマすりみたいな真似をしていた。


対するおふくろ


「そんなとんでもありませんわ。私はどこの大学でも良いんですのよ。どちらかというと直樹にはこちらの斗南大に進んでもらいたいくらいですの」


それを聞いて俺は嫌な予感がし、担任は何を言ってるのか分からないとばかりにポカンと口を開けた。


「だって、斗南大に進学したら琴子ちゃんとまた4年机を並べて勉強できるでしょ?いいわねー、楽しいわね、青春の大学生活。仲良く同じ講義を受けて図書館でお勉強。夜は勿論うちでまたひざを突き合わせて、、、そのうちいい雰囲気になって『よく出来たな琴子。俺が見込んだだけある。そろそろあっちの勉強も開始しないか』なんて・・・」


「おい、下らない妄想してんじゃねえよむかっ


俺は怒りで青筋を浮かべながらおふくろに言い返した。


「下らなくないわよ。お兄ちゃん、恋愛は生活に潤いを与えるのよ。家庭が円満でこそ、男性は仕事がうまくいくものなの!!大学生活だって同じよ。可愛いお嫁さんに美味しい食事。明るい家庭、家族の笑い声。ふんわりミルクの香りの赤ちゃんを抱いて、みんなで取り合いするのよ。琴子ちゃんとお兄ちゃんの赤ちゃん。はぁ、楽しみだわ!! うふふ、名前は何がいいかしらね♪」


「おふくろ!!」


「大体、なんで琴子なんだよ。あんな不っ味い飯作るヤツが美味い食事? 夢見るにも限度があるだろ」


「あら、私と一緒にご飯作れば問題ないわよ。味は相原さんのお陰で舌は肥えてるし。琴子ちゃんみたいな明るくて素直な子なんてお兄ちゃんに勿体無いくらいなんだから!! このチャンス逃したら琴子ちゃんが他にお嫁にいっちゃうわ。お兄ちゃん、もっと頑張りなさい!!」


担任が俺らのやりとりに恐る恐る口を開く


「あのぅ・・・(進路指導を)」


「先生、琴子ちゃんというのは3Fの相原琴子ちゃんですの。そして直樹の婚約者ですわ」


「してねえ!!」


「んもう、相原さんだって認めてくれてるのよ。三世帯同居楽しいじゃない。琴子ちゃんだってこんな愛想の悪いお兄ちゃんのことを一途に慕ってくれてるし、後はお兄ちゃんがちょっと本気出せば結婚も孫も夢じゃないんだから」


「孫孫言うな!!」

「大体琴子相手に結婚だの子供だの考えられるか!! あいつはAカップ」 
「あら、妊娠すれば胸は大きくなるわよ。それに琴子ちゃんの生理はきちんときてるから妊娠は大丈夫だし、スレンダーな割には腰はいい形だから安産出来そうよ。若いから何人も産めるだろうし、私も若いから子育てには勿論協力するわ。大学行ってる間は私が責任持って育てるし、高校3年の今でもお兄ちゃんの誕生日さえこれば入籍は大丈夫だもの。安心して、お兄ちゃん」おふくろは俺に向かってにんまり笑う。

「問題はそこじゃねえ!!」 

俺らの喧嘩に担任が頑張って仲裁を試みる。 

「相原さんはあまり勉学が・・・」担任が頑張って口を挟もうとしたが、

「あら、琴子ちゃんに勉強はあまり必要ありませんわ。直樹が勉強できますし、直樹が教えればいいんですもの。琴子ちゃんは心がすごく綺麗で思いやりがあって、いつでも一生懸命で、こんな直樹を一途に想ってくれてる貴重な女性なんですの。直樹の嫁にふさわしい子なんて琴子ちゃんしかいませんわ。可愛いし、スタイルいいし、笑顔だし、声も綺麗だし、私を母のように慕ってくれるし・・・」


止まらないおふくろに俺は怒りを抑えるのに苦労した。


「見た目、ただの中学生だろ。頭は小学生並。胸は今後成長しないだろうから絶望的だね」


「胸、胸って・・・。もめば大きくなるの。お兄ちゃん頑張って大きくなさい 


などともめてるうちに面談は終了の時刻になったらしい。


次の親子に面談室をノックされた。


今の会話    ―――全て筒抜けか!?


取り合えずセンター試験を受けることを確認し、俺の三者面談は終了した。

 


次の日から琴子が親公認の婚約者であると学校中に通知されたのは言うまでもない。