米国のモダン・ホラー作家といえばスティーブン・キングと、ディーン・R・クーンツ。
キングのホラー作品は、恐怖がひたひたと押し寄せるのが多い。主人公に肩入れしながら読んでいても、「これは無理なのでは?」という絶望感や無力感にさいなまれます(『呪われた町』は、読み返そうと思いつつ、本棚に20年以上そのまま)。ま、そこがホラーの醍醐味といえば、その通りなのですが。
一方クーンツのホラー作品は、恐怖はあるけど、悪役にも同情の余地があり(残虐非道っぷりに、わずかな同情は消し飛びますが)、たぶん善が勝つという安心感がある。そのためホラー小説としてはやや甘いのかもしれないけど……
そこが好きです、クーンツ。
もともとクーンツは色々なペンネームで書いていた職業作家で、ロマンスものから冒険ものまで、幅広く作品を出していました。
次第に知名度を上げていき、1980年に『ウィスパーズ』を発表して人気に。以降はディーン・R・クーンツ名義でコンスタントに作品を発表し、ベストセラーリストにランクインすることもしばしばあるそうです(Wikipediaによる)。
クーンツの作品はどれも魅力的。ハラハラドキドキして、日常から別世界へトリップさせてくれます。
中でも私がいちばん好きなのは、『ウォッチャーズ』。
『ウィスパーズ』の後に書かれたこの作品は、ホラーでありながら、古典的なボーイ・ミーツ・ガールの話でもあり、とても魅力的です。
孤独な男、トラヴィスの前に現れた、1匹の迷い犬ゴールデン・レトリーバー。その犬には、不思議な知性が感じられた。トラヴィスは、犬に“アインシュタイン”と名前をつけて飼うことにする。
夜になると、犬は窓の外をながめ、おびえるようなそぶりを見せる。追手がいるのか? 次第に表れてくる敵の姿。
捜査官も犬を追い、しだいに話はクライマックスへ――
犬がとてもかわいく、声やシッポで会話をするのが、読んでいて楽しい。
主人公たち(とうがたっていますが)の恋愛も、中年ならではのじれったさがあり、読んでいて応援したくなります。
『ウォッチャーズ』、機会があったら、ぜひ読んでみて下さいね。
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